「…南沢さん?」
「……」

さっきから南沢さんが、後ろから俺に抱きついたまま離れてくれない。南沢さんの足の間で三角座りの体勢は、周りから見たらきっと可笑しいんだろうな、霧野が向こうで笑っている。もういい加減俺もこの体勢が恥ずかしくなってきて、離してくれと言ってみたが聞こえないフリをしているのか、何の反応も返ってこなかった。

(困ったな…)

こういう時の南沢さんは、拗ねているらしく変に頑固になる。俺拗ねるようなことなんかしたっけ、と思い返してみても何も出てこない。ていうか今日の弁当の時間まで普通だったじゃん。一体何が彼をこんなにまで……って

「いった!」
「……」

首筋にチリッとした痛みが走って、微かな鉄の匂いが鼻を掠めた。あーあ、血出たなって気にしてる場合じゃない。南沢さんが拗ねた原因を突き止めて謝らないと。それから俺は、今日あった出来事を思い返してみた。

(ええと今日は体育のサッカーでゴールきめただろ。あと数学の時間寝てただろ…てのはいつもの事だし。あ、今日の弁当嫌いなおかず入ってた。あと変わったことといえば…)

「…さっき告られたの見てました?」
「……」

南沢さんの体がぴくんと揺れた。それで俺は確信する。南沢さんがこうなったのは、告白されたのが原因なんだ。…取り敢えず俺は、これから南沢さんのご機嫌とりをしないとかもしれない。それにしても見られていたなんて、本当タイミング悪いな。

「南沢さん」
「……」
「…みな」
「倉間は俺のなのに…」

うわ、こんなに弱った南沢さん初めてかも…っていうか、不覚にもときめいた。なんか今日の南沢さん可愛いかも。首元にある南沢さんの頭を小さい子にするみたいにぽんぽんと撫でた。いつもなら髪を触られるのを嫌がるのに、今日の南沢さんはもっとしろみたいに頭を擦りつけてくる。…やっぱり今日の南沢さんは可愛い。

「俺ちゃんと断りましたから…」
「…当たり前だろ。だいたい倉間の癖に告白されるなんて生意気なんだよ」
「なに言って……んッ!」

またもや首筋に噛みつかれた。今度はちゅ、ちゅと音をたてて首筋からだんだん下におりて痕を残していく。南沢さんがやっと首から離れた頃に首を捻って見てみると、うんざりするぐらい赤い痕がついていた。どうしよう、隠せないって。
「ちょ、みな…」
「お前は俺だけでいいんだよ」
「っ、」

ズキューンと矢が俺の胸を撃ち抜く。もう痕が隠せないとか、そんな怒りは何処かへ消えていってしまった。

(仕方ないなぁ…)

今日のところは甘え沢に免じて許してやることにする。





剏N薫る全てに所有印を

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