数学って何のためにあるんだろう。目の前の赤いペンで5と大きく書かれたテストを見て、心の底からそう思った。 「……」 そっとテストを8つ折りにしてポケットにねじ込む。さて、あの人になんて言い訳をしたらいいんだろうか。 ***** 「倉間テストどうだった?」 きた。早速きた。隣を歩く南沢さんは、見たところ機嫌が良さそうで、きっとテストの点がよかったんだろう。苦笑いでこの話を濁そうとしたが、そうもいかないみたいだ。 「どうせポケットん中にくちゃくちゃになって入ってんだろ?出してみろよ」 その目でポケットを見透かしたんですか。なんで入ってるって知ってんすか。 しぶしぶポケットからテストを出して南沢さんに渡した。それを面倒くさそうに広げて、点数を見た瞬間に頬を引きつらせた。もうそんなリアクションいいから笑ってくださいよ。 「…家、来いよ」 「は、」 「教えてやるから」 「えぇー…」 まさかそんな事言われるなんて考えてなかった。怒られるとか呆れられるなーとは思ってたけどまさかまさか…。 逃げようと思って足を踏み出したけど、思ったように前に進まなくて後ろを振り向いたら南沢さんがやたら笑顔で俺の学ランを掴んでいた。 「お見通しなんだよ」 こうして俺は南沢さんの家へと連れていかれてしまった。 **** 「…ここはこの公式っつってんのに何聞いてんだよ」 「すみません」 「集中しろ馬鹿」 いや、集中出来なくて当たり前ですよ。こんな真横に南沢さんの顔があって、しかも眼鏡で肩とか時々あたって、そんなとこで勉強なんて出来るわけない。まずは環境を、環境を整えないと…。 「ちょ、ちょっと南沢さん休憩…」 「早ぇな」 シャーペンをからんと置いて後ろに手をついた。すると右手にこつんと何かが触れて、その瞬間に南沢さんの体がびくりと揺れた。 「…?」 かぁぁと顔を赤くしてこちらを困ったように見てくる。なんだと思って右手に視線を落とした。そうか、さっき俺の手にあたったのは南沢さんの左手だったんだ。 「っ…」 「み、みなみさわさん…」 怒られるかな、なんて。その手をぎゅっと包んで距離を縮める。だってこんな可愛い南沢さん見たことないし放っとけない。 「っ、倉間」 「南沢さんかわいい」 「んな事言ってもヤだぞ…」 片方の手で南沢さんの肩を押して足の上に跨がる。テーブルに腕が当たってカタカタと音をたてた。 あまり抵抗してこないところを見ると、これからの行為に少しは期待しているんじゃないか。 「満更でもないくせに」 「っ!」 カシャン、と後ろでシャーペンが落ちた音がした。 ×
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