「くらまー」
「ん?」

部活の間のちょっとした休憩時間に、浜野がニコニコと笑顔でこっちにやって来た。

「日曜釣り行かね?」

やっぱりそんなとこだろうと思った。
日曜日か、日曜日なら予定は何も無かった筈だ。そして普通に「いいよ」と返事をしそうになってはっと口をつぐんだ。視界の端で南沢さんが不機嫌そうな顔でこっちに来ていたからだ。そして俺の腕をギリと掴むと俺の代わりに勝手に浜野に返事をした。

「悪ぃ浜野、その日は予定あるんだ」
「みな…!」
「ん、そっすかー。わかりました」

そう言って浜野は残念そうに向こうの速水のほうへ行ってしまった。…違うんだ浜野、その日は本当は何も無いんだ。
だんだん離れていく俺と浜野。南沢さんは俺の腕を掴んだまま、スタスタと歩き出した。もうすぐ休憩は終わりなのに何処へ連れていく気なんだ。


「…倉間」
「はい」

少しグラウンドの隅のほう。あまり人目にはつかないところで南沢さんは足を止めた。くるりと此方に振り向いたその顔は、やっぱり先程と同じで怒りに満ちている。南沢さんを怒らせる事を全くしていない、という事はない。何故なら南沢さんは凄く嫉妬心が強いからだ。

「俺がなんで怒ってるかわかる?」
「……わかりません」

すると南沢さんはあからさまに溜め息を吐いて言った。

「浜野と釣り行くの、俺がいなかったらオッケーしてた?」
「……」
「…ふーん」

やっぱりその事だったか。
南沢さんは好きだけど、こういう束縛のきついところは好きじゃない。でもそれだけ大事にされてるんだって思ったら嬉しいし、なんだか複雑だ。それでも浜野ぐらいなら別にいいんじゃないのかっていつも思う。

「何回同じ事言わせんだよ。…これ以上苛々させんな」
「すみません」
「お前俺の事好きじゃないわけ?」

ハッとして俯いていた顔をあげた。そんな好きじゃないとか一言も言ってないのになんでそんな事になるんだ。

「ごめん、冗談だって。…そんな泣きそうな顔すんなよ」
「……南沢さん」
「ごめん。俺すぐ嫉妬するから浜野とか速水でも、お前が笑ってたら苛々するんだ」
「……」

きゅっと眉を寄せて、辛そうに笑った。なんだかいつもの南沢さんらしくない。
「南沢さんだけが好きです」なんて言葉にするのもあれだから、黙ってぎゅっと抱き締めてやった。…多分周りから見たら抱き着いてるんだと思うんだけど。
そしたら南沢さんの腕が背中に回ってきて、今よりも更に体の密着度が増した。

「くらま、…好き」
「知ってますって」
「ん…」

そして額に軽いキスを落とされた。










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