ははっと仲良く談笑し合う南沢さんと神童を、少し離れたところから見ていた。
最近あの二人は一緒にいることが多くなったと思う。それは俺にとってはあまり気分の良いものではない。そりゃ、自分の恋人が他の人といたら誰だって気になるだろう。二人からぱっと目を逸らして、色々詰まったロッカーに突っ込んだ鞄を肩に引っ掻けた。

「…浜野速水、帰んぞ」
「ちゅーか倉間南沢さんと帰んないの?」
「…話し込んでるみたいだしな」

俺ははあまりそういった、嫉妬とかの感情を表に出したくなかった。醜いし、第一南沢さんを信じていないみたいで嫌だし。
二人はロッカーから鞄を取って肩に引っ掻けた。速水のは俺と浜野のと違って綺麗なロッカーだな。
さようならと先輩達に軽くあいさつをして、サッカー棟から出た。

「……」
「倉間なに怒ってるんですか?」
「怒ってない」
「怒ってるじゃないですか…」
「怒ってないつってんだろ!」

はっと我に返ると、速水も浜野も驚いた顔をしていた。は、八つ当たりとかカッコ悪。周りの空気が一気に重くなった。

「わるい、…先帰るな」
「ちょ、倉間!?」

きょとんとしている二人に構わずにばたばたと走った。

「ッ…!」

さっきから脳裏にちらつく神童と南沢さんの笑った顔。なんで神童といるんだよ、なんで来てくれないんだよ、なんで。それらが全部黒いもやもやになってずしりと胸に溜まる。
ああなんて下らない、嫉妬してるなんて。

「なんで先帰んの」
「っわ!?」

その言葉と共に、後ろから突然肩が掴まれた。びっくりして振り返るとそこには何故か汗をかいている不機嫌そうな南沢さんがいた。

「…ったく、一人で帰ってて襲われても知らねぇぞ」
「別に襲われませんし。ほっといてくださいよ」

俺はなんて可愛くない奴なんだろう。心なしか南沢さんの眉がさっきより寄っている気がする。放って先にすたすた歩くと南沢さんも隣に並んできた。

「なに怒ってんだよ」
「…怒ってません」
「嘘吐け。お前顔怖ぇぞ」

覗き込んでくる南沢さんからふいと顔を背けた。

「なぁ。……嫉妬した?」
「……してません」
「ふ、倉間かーわい」

南沢さんにぽんぽんとあやすように頭を叩かれた。とたんに溜まっていたもやもやが、すっと消えて軽くなった。びっくりするくらい単純。

「……嫉妬してたなんて、知られたくないですよ」
「そうか?俺は嬉しかったぜ。…倉間可愛かったからつい、な」
「な、じゃないっすよ!てゆうか知っててやってたんすか!?」

悪ぃなって口に手をあてて南沢さんは笑っている。思わずカチンときた俺は南沢さんの肩を思い切り叩いて、さっさと早足で歩いた。

「…倉間」
「……。」
「倉間!」

しつこいと言おうと横に首を回すと、すぐ目の前には南沢さんの整った顔があって、ほんの一瞬だけ唇に熱が触れた。

「〜ッ!」
「これで許して?」

こんなキスひとつで許す俺は、ほんと単純だと思う。










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