「南沢さーん」

いつも通り終礼が終わって、いつも通り三年生の教室に向かう。最初の頃は三年生の教室に二年生が行くのは勇気がいったが、今ではもう慣れた。
南沢さんより先に教室から出てきた三国さん達にあいさつをして、南沢さんが出てくるのを待った。

「……あれ」

しかしいつまで経っても南沢さんは出てこない。いつもは人の波より少し遅れて出てくるのに。…多分今出た人達が二番遅いと思うんだけど、南沢さん何してんだ。もしかして先に帰ったとか?いや、それはないか。
少し不安になった俺は、教室の戸を開けてちらと中を覗いてみた。
…いた。紫色の髪の彼はどこにいても見付けやすい。というかもう教室には南沢さん以外誰も残っていなかった。

「…南沢さん?」

机に突っ伏したまま動かない。死んでいるのだろうか。
まぁそれはないだろうと思いつつ、内心少し不安で窓際の彼の席まで小走りで近寄った。
すーすーと確かな呼吸と共に肩は上下していた。よかった、生きてた。

「……」

それにしても、こんな幸せそうに眠っている人を起こしていいのだろうか。少し躊躇ってから鞄をおろして隣の席に座った。
あー、なんか変にどきどきする。隣には安らかな顔で眠った南沢さん。わ…それにしても睫毛なが。髪の毛とかさらさらで気持ちいいかも。起きるかもなんて思いながら髪をいじっているが、一向に起きる気配が無い。
一度手を止めて、滑らかな頬に指を滑らせた。改めて教室を見渡す。教室には俺ら以外誰もいない。おそらく今頃来る人もいないだろう。
…あーあ、こんな無防備な寝顔なんか見せて、

「…襲われますよー」

なんちゃって。

「誰に?」
「わっ」

返ってくる筈の無い返事が返ってきた。南沢さんはぱちりと瞼を開けると、此方をみてもう一度「誰に?」と繰り返した。

「みなみさわ、さ…」
「欲情した?」
「なっ…」

くすりと笑って、南沢さんは俺の頬に右手を添えた。

「シよっか、倉間」
「……ああ、もう」

そして俺は誰もいない教室で、南沢さんに覆い被さった。










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