突然ですが告白します。俺は南沢さんが好きだ。これは本人には勿論言ってない。知ってるのは速水にも浜野だけ。こいつら「告れば?」とか簡単に言うけどそんなの絶対出来ない。キモいとか言って避けられるのなんて目に見えてるから、それなら今の先輩後輩の関係のままでいいって思ってた。


『南沢さんが好きなんです』


言うつもりなんて本当に一ミリも無かった。ただ気付いたら口からぽろりと零れ落ちていた。どうしよう、何て言えばってパニックになったけど何も言えなくて、その後は南沢さんも俺もずっと黙ったままだった。だけどその後も南沢さんとの関係は何も変わっていない。避けられてないのはいいけど、流されたというか無かった事にされたのは少しショック。


「おい倉間帰るぞ」
「あっ、はい」

先に出ていく先輩に置いていかれないように走って南沢さんの隣に並んだ。辺りはすっかり暗くなっていて、脇に立っている電灯だけが頼りだ。冬って本当に暗くなるのが早いな。

「お腹へりましたねー」
「…あぁ」

どうしたんだろう、南沢さん心ここにあらずみたいな。さっきから俯いたままだし。すると南沢さんは急にぴたりと足を止めた。

「…みな」
「倉間」
「…」

南沢さんはやっぱり俯いたままだ。この狭くて薄暗い道に南沢さんの声はよく響いた。側に立っている電灯がチカチカと屡叩いて俺の鼓動を速める。

「一回しか言わねぇから…ちゃんと聞けよ」
「…?はい」

それから沈黙。俺はひたすら南沢さんの言葉を待った。だってきっとあの事だろう、怖いけど聞かないと。学ランの袖をぎゅっと握った。

「好きだ」

南沢さんの口から出た言葉は凛としていて、それはしんと静まり返った辺りにも俺の頭にもわんわんと響いた。チカチカと屡叩いていた電灯はついに消えて、かろうじて見えていた南沢さんの顔も見えない。じゃり、と南沢さんが一歩こちらに踏み出した。そしてまた一歩、ゆっくり近づいてきてもう目の前にいる。見上げてみたら以外と互いの顔の距離が近くて少し驚いた。そして南沢さんは両腕を俺の背中にまわすと、顔を肩に埋めて少し体重をかけてきた。

「…倉間震えてる」
「寒いからですよ」

おずおずと南沢さんの背中に腕をまわすと力を込めて抱き締められた。ふるふると情けなく手が震えてる。だって、俺南沢さんとずっとこうしたかったからほんと夢みたい。すうと大きく息を吸うと、俺の大好きな南沢さんの匂いが鼻腔を擽った。

「返事遅くなってごめん。なんかいざ言われると嬉しすぎて言葉出ないっつーか…」
「え?待ってくださいよ。もしかしてずっと前から知ってたり…?」
「当たり前だろ、お前わかりやすいもん。俺ずっとお前のこと好きだったのに全然気付かねーし」

驚いている俺をよそに南沢さんは俺を離すと「風邪引くから帰るぞ」と言って手を握ってくれた。ひやりとした手は骨ばっていて、やっぱり俺の手より大きいななんて思ってたら家はもうすぐそこで、もう南沢さんと別れるのかと思ったら急に寂しくなった。

「あ…南沢さん、また明日」
「おう、じゃあな倉間」

そして手を離そうとした瞬間に腕を引かれて頬にキスされた。それを手で押さえてわなわな震えている俺にひらひらと手を振って南沢さんは走っていってしまった。



「もう俺幸せすぎて死ねる」
「…だから早く告ればって言ったのに」
「えっ速水、南沢さんが俺のこと好きなの知ってたのかよ!」
「多分気付いてなかったの倉間だけですよ。浜野も気付いてたのに…」


翌日、速水にこの事を言ったらよかったですねと祝福された。
…それにしても浜野も気付いてたとか俺すっげぇ鈍感野郎じゃん恥ずかし。ふと何気なく窓の外に目をやったらグラウンドに南沢さんがいたから名前を呼んで大きく手を振った。


「大好きでーす!!」
「ばっかお前もう死ねば!!」










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