「くーらま」
「なんスか」
「キスして」

そう言って南沢は目を閉じた。

「……」

正直、倉間はその南沢の行動に腹を立てていた。此所は立ち入り禁止の屋上で他の生徒はいないから、別にキスくらいしてやってもいいんだけれど。寧ろしたいんだけど。
身長が、届かないのだ。
南沢もそこまで身長が高いとはいえないが、倉間よりかは高い。どんなに背伸びをしたって届かない倉間をいつも南沢は笑っているのだ。
そしていつも「倉間はチビだからなぁ」と馬鹿にして、少し腰を屈める。これが倉間にはどんなに屈辱的なことか。

「またそれっすか…」
「なに?あ、身長届かない?」

その言葉についにプチンときた倉間は思わず「違います」と言ってしまった。いや、一ミリも違わないんだけれども。

「へぇ…じゃあ早くしてよ」

さて、どうしよう。実は倉間にはそれなりの秘策みたいなものがあった。前に何かのドラマで見たやつだったのだが、上手くいくだろうかという不安がある。しかし今はそんな事じっくり考えている暇なんて無い。
倉間は南沢の胸ぐらを掴んで力任せに引き寄せた。バランスを崩して此方に倒れて来そうな南沢の唇に自分の唇を重ねた。と思ったがそれは上手くいかずにがつんと互いの歯が勢いよくぶつかって、二人は口をおえると下にうずくまった。

「〜ッ!」
「ってぇ…」

唇に手を当てて見ると、そこには少量の血がついていた。どうやら引き寄せる力が強すぎたようだ。

「…失敗か」
「ばっ、失敗かじゃねぇよ!」
「南沢さんが悪いんです」

そして倉間はしゃがみこむ南沢の顔を覗き込むと、唇の傷口をぺろりと舐めた。

「いつものお返しです」










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