「なぁ倉間、悪かったって」 「……」 見ての通り、倉間と南沢は喧嘩中である。原因は南沢がふざけて倉間のゲームのセーブデータを消したこと。部活中でも同じポジションなのに倉間は南沢を見ようとしないから、おかげで練習にならない。神童はそんな二人を見て、影で大きく溜め息を吐いていた。 「…もういい。倉間がその気なら俺だってもう知らねぇよ」 「……」 がたんと席からたって倉間に背を向けた。南沢は一向に機嫌を直さない倉間に腹をたてた、ふりをした。倉間はぴくりと肩を揺らして反応は示したけど何も言わない。そんな倉間を横目で見て、南沢は神童と霧野の座っているほうへ近付いた。 「あーあ、いいなぁ霧野は…素直で可愛い恋人がいて。なぁ神童」 「えっ…」 「でしょー南沢さん、神童は素直で可愛いんですよ。…誰かと違って」 霧野の呟いた言葉は倉間の耳にしっかり届いていたみたいで、横目で霧野を睨みながらギリギリと歯軋りをした。 「神童かわいーな」 「…?」 「ダメですよ南沢さん、神童は俺のです」 「そういうこと言うなよー」 完全に南沢も霧野も倉間苛めを楽しんでいる。神童はイマイチよくわかっていないようだが…。流石に倉間もだんだんと不安になってきてちらちらとその三人の様子を盗み見ていた。倉間は止めに行こうか、行かないで意地を張り続けるかで迷っていた。勿論それは南沢の作戦であることは知っていた。知っていたから南沢が神童の頬に手を添えて顔を近付けようとしていた事に驚いたのだ。本当に神童が好きなんじゃないかって疑うくらい自然だったから。 「み、南沢さん!」 倉間は部室中に響き渡る大声で席を立った。それから走って南沢のところへ行くと、神童と引き離してその間に入って、南沢の胸板にぎゅっと抱きついた。 「ごめんなさいっ…ごめんなさい」 「ちょ…」 「神童みたいに可愛くないし素直じゃないけど、南沢さんが好きなんです!だからもう捨てないでくださぃ…」 ぼろぼろと零れる涙が南沢のユニフォームを濡らしていく。まさか泣くとは思っていなかった南沢と霧野は、心の中でパニックになっていた。神童も神童で「俺が悪いのか!?」と半泣き状態である。取り敢えずこのなんともいえない空気から逃げ出したくて、南沢は倉間を支えながら部室の外へ出た。 「…倉間ごめん」 倉間はぐずぐずと鼻を啜りながら、顔をあげた。大きくて綺麗な目が真っ赤に充血していて、南沢は再び申し訳ない気持ちになった。 「ちょっと苛めすぎた。…俺は神童よりも、素直じゃないけど可愛い倉間のほうが大好きだから。…ごめんな」 「…俺、捨てられたと思った…」 「っんなことするわけないだろ、俺倉間好きなんだから」 「ほんと?」 「ほんと」 そして南沢は、まだ少し疑っている倉間をぎゅっと強く腕の中に閉じ込めてやった。 (要するに最終的にはハッピーエンドってなわけです) ×
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