「倉間の髪ってふわふわしてるー」
「わっ、猫みたい!」
「うっせ、さわんな!」

何やってんだあいつは。弁当一緒に食ってやろうと思ってわざわざ来てやったのに、女子に髪触られてヘラヘラしやがって。んだよ、倉間の髪さわっていいの俺だけなのに…なんてヤキモチとか恥ずかしいから言わないけど。

「〜もう飯食うからどっか行け!」
「えー」
「えーじゃねぇよ。あっ、南沢さん」

やっとこっちに気付いたみたいだ。倉間の髪をさわっていた女達は「きゃー」とか頬を赤らめている。その声には構わないで、倉間の頭に置かれたままの手に顔をしかめながら机の所まで行った。

「何しに来たんすか」
「は、俺がわざわざ一緒に飯食う誘いに来てやったのになにその態度」
「はぁ、すみません」
「…それから、」

倉間の頭をさわっていた女子の手首を掴んで下ろした。その子は顔を真っ赤にして頭にハテナを浮かべている。倉間を強引に席から立ち上がらせて肩を抱き寄せた。そして口元を髪のふさふさに埋めて、ざわつく教室の真ん中で言ってやった。

「コイツ俺のだから」
「は、〜!?」

教室のざわつきが一層大きくなった。倉間も本気で慌て出して「ちがう」やらなんやら言って顔を真っ赤にしてもはや半泣き状態だ。

「だからさわっていいの俺だけな」

二人分の弁当を持って倉間を引きずって教室から出た。倉間の口からは馬鹿とかあほとか罵詈雑言が次々に飛び出してくる。

「バカっすか!んっとにバカっすか!〜っあり得ねぇマジで」
「はいはい、でも女子に髪さわられてヘラヘラしてる倉間も悪い」
「ヘラヘラなんかしてな…!」

屋上の扉を開けて、倉間を腕から解放してやった。ん、と弁当を渡して適当に壁にもたれると、倉間も隣にちょこんと座った。俯く倉間の髪の隙間から覗く耳はまだ赤みをおびていて、少しやりすぎたかなと心の中で反省する。

「…勝手に妬いてあんなことして…み、南沢さんなんか大嫌いだ!」
「だから悪かったって…。だって仕方ないだろ、…倉間とられたくねぇから」

…ちょっと言わなくていいことまで言ったかも。倉間は驚いたように、大きな目を数回ぱちぱちさせて、それから眉間にぎゅっとシワをよせた。

「……ばかですか?」
「…あ?」
「俺は南沢さんしか興味ないですし、とられるなんてこと絶対無いですから!」

そう言い切った倉間はフンと鼻を鳴らして弁当を広げ始めた。すっかり弁当の事を忘れていた俺も、それに続いてコンクリートに広げる。それから箸で卵焼きをつかむと倉間の口元に差し出した。

「…でも妬けるからさ。もうさわらせんなよ?」
「〜、わかってますって…」

少し躊躇った後、倉間はおずおずと口を開いた。










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