「あの二人うるさいんだど…」
「……あぁ」

天城と三国は南沢と倉間を、うんざりとしたような目で見ていた。南沢と倉間は先ほどから互いを睨みあってぎゃあぎゃあ叫んでいる。きっと周りの迷惑など頭にないんだろう…。神童はもう見て見ぬふりをして霧野と喋っていた。


「南沢さんのばか!」
「んだと?このチビ!」

原因は南沢が倉間の身長のことを馬鹿にしたということだった。南沢も人の事を言えるほど身長は高くないのだが、倉間には勝っているからという、なんとも南沢らしい自分を棚に上げた考えである。
倉間も三国に言われるのなら仕方がないと思うが、たいしてそう身長の高くない南沢に言われてカチンときたようだ。軽く言い返すとまたそれに上乗せされた嫌味が返ってきて、二人とも相手が恋人だということを忘れて本気になっているようだ。

「南沢さんだってたいしてでかくない癖に!」
「るせぇな!だいたいテメェに馬鹿とか言われたくねぇよ」
「なっ…」

南沢がそう思うのは当然である。何故なら定期テストなら南沢はいつも合計400越えが当たり前で、それに比べて倉間は60を越えるか越えないか辺りをさ迷う馬鹿だからだ。流石にその言葉には言い返せないのか、ぐっと黙って南沢を睨んだ。

「はっ、そこは認めんのな。毎回毎回テスト一桁の救いようの無い馬鹿でアリですかってくらいチビのくらまくーん」
「っそ、そこまで言わなくても…」



「…あの二人は小学生か」
「南沢大人気ないど。…倉間そろそろ泣きそうだど」
「あ、泣いた」



「ッ…!」

倉間はふるふると肩を震わせて唇を噛み締めていた。必死に堪えようとユニフォームをぎゅっと力強く握っているが、大きな瞳からは涙が次々に零れて止まりそうにない。南沢は正直倉間が泣くとは思っていなくて若干パニックに陥っている。取り敢えず泣き止ませようとぽんと肩に手を置いたが、その手はパシンと払われた。

「く、倉間…」
「っ……、」
「わるかったって…」



「南沢最低だな」
「だど」



ひそひそと三国と天城が隅のほうで南沢を批難する。その声が聞こえたのか南沢は二人をキッと睨むとまた倉間と向き合った。倉間は相変わらずひくひくとしゃくりあげていて泣き止む様子もない。南沢はどうしようかと悩んだ挙げ句、ここが部室であることを承知の上で倉間を抱き締めた。

「ばっ…み、南沢さ…」
「ごめん。お前可愛いからついからかいすぎた」
「なに言って…、」
「好きだよ倉間」

かぁぁと倉間の顔はみるみるうちに赤く染まる。そして自分と南沢との間に距離を作っていた腕の力を抜いて、体重を彼に預けた。



「…ほんとに見せつけてくれるな」
「……」



三国と天城は呆れて溜め息を吐いた。










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