あれから、神童に休むと言って着替えた俺と南沢さんは、家の方角が一緒ということで二人で帰ること(本当は一人で帰るつもりだったのに南沢さんが隣に来て、自然と一緒に帰るはめ)になった。そういえばこの人と二人っきりでいるのって、初めてかもしれない。そもそもあの日から俺は、南沢さんを避けていたから、こうやって隣にいるのは久しぶりだった。…今実は走って逃げ出したい気持ちで一杯なのだが、それは腰の痛みのせいで無理なのだ。かといって、俺にはこの会話も何も無い空気に耐えられる筈もなく。

(仕方ない)

走って逃げるのが無理なら『俺こっちなんで作戦』を実行するか。うん、それしかない。
俺は曲がり角のところで家と反対のほうを指差して、南沢さんに言った。

「じゃ、じゃあ俺こっちなんで」
「嘘つけ。お前もこっちだろ」
「い、いやでも用事が…」
「腰痛ぇのに何処行く気だよ」

その言葉に俺は言い返すことが出来なくて、あははと笑って誤魔化しながら南沢さんの隣に戻った。しまった、作戦失敗だ、大失敗だ。まさか南沢さんが俺の家を知っていたなんて。くそっ…とんだ言葉間違いを犯してしまった。今のですっかり悪くなってしまった空気が、俺の上にずしりとのし掛かる。駄目だ、メンタル的に駄目だ…と頭を抱えていたその時だった。

「倉間最近俺のこと避けてないか?」
「………え」

つう、と嫌な汗が一筋背中を伝った。徐々に鼓動が速くなっていくのがわかる。俺は何も言えずに俯いて、じゃりじゃりと石を蹴る足元を見ていた。

「さっきのとかさぁ、あんな分かりやすい嘘吐いて。…俺なんかした?」
「…や、別に避けてるわけじゃ、」
「嘘吐き、こっち見ろよ」

無理矢理向けさせられた、南沢さんとの顔の距離が意外と近くてびっくりした。南沢さんの顔は不機嫌にも見えるし悲しそうにも見える。

(…南沢さんって、)

改めて見ると、やっぱ彼女とかいるだけあって整った顔してる。睫毛とか無駄に長いし…美男子ってやつ?なんてどうでもいいことを考えていたら、いつの間にかさっきより距離を詰められていた。なんで、いつの間にっていうか…近い近い近い。俺の心臓は悲鳴をあげていた。ばくばくと煩い鼓動は一体どこまで煩くなるんだろう。もしかしたら爆発するかも。だってそれくらい俺の心臓、が

「南沢ーっ」
「!」

俺はハッと我に返った。南沢さんがその声に気をとられた隙を狙って、胸板を力いっぱい押した。南沢さんは少し後ろによろけて、体勢を立て直す。それからさっき声のした方を見て俺は固まってしまった。いや、多分南沢も同じように固まっていたと思う。
だってそこにいたのは、南沢さんの彼女だったから。







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