「あ、あの…南沢さん?」
「んだよ、早く乗らねぇとぶっ飛ばすぞ」
「乗らせていただきます」

また吹っ飛ばされるなんて嫌だ。南沢さんが再びキレる前に俺は背中に乗っかった。それと同時に南沢さんが立ち上がって、見ていた景色が高くなった。いつもは見上げている物でも、今では見下ろしていて、ちょっとした優越感がある。…どうせチビだよ、悪いか。

「行くぞ…?」
「え、はい…ってうわぁぁぁ!?」

一体どうしたんだ南沢さん。俺が「はい」と言ったのをリレーのピストルの合図だとでも思ったんだろうか。
南沢さんは俺をおんぶしたまま廊下を走り出した。

「み、みみみ南沢さ…!?」
「落ちんなよー」

南沢さんの声は嬉々としていて、明らかに俺が怖がっているのを楽しんでいるようだ。ふわりと風に乗って南沢さんの匂いが流れてくる。まだちゃんと掴まっていなかった俺は振り落とされないように、ぎゅっと首に腕を回して目を瞑った。

「ちょっ…く、倉間?」
「な、なんすか?」
「っ締めすぎだ馬鹿!」
「だって落ちる!」

こんなに力入れててまだ不安定なのに、これ以上緩めたら絶対落ちるって。なのに南沢さんは走ることをやめないから、更に腕に込める力を強くした。

それから保健室に着くまで、そう時間はかからなかった。保健室に近付くと徐々に走る速度をおとして立ち止まるとゆっくりと屈んだ。そこから腰に負担がかからないようにそっと降りて南沢さんの様子を窺う。いくら部活をしていても、あそこから俺をおぶって、しかも走ってくるのはしんどいだろう。

「南沢さん大丈夫ですか…?」
「全然問題無い」

しれっとして答える南沢さんは、驚く事に全く息を乱していなかった。しんどいとかそういうのより、髪の毛のほうが気になるのかサラッと一度撫で付けて、保健室の戸を開けた。

「失礼します」
「おー、どうした?…南沢お前顔真っ赤だな、熱あるだろ」
「え…?」

俺はびっくりして南沢さんの顔を覗き込んだ。南沢さんは慌てて顔を手の甲で隠したけど、空いた隙間から見える肌は確かに赤かった。

「南沢さん熱あるんすか…?」
「ちがっ、これは熱じゃなくてお前が…!」
「……やっぱ俺のおんぶのせいですよね、すみません」


そんな、しんどかったらおんぶなんて断ってたのに…ていうか俺は断ったけど南沢さんが強制するから…。やっぱ俺の腰の責任でも感じたからなんだろうか。


取り敢えず俺は腰に湿布を貼ってもらって、南沢さんと保健室を出た。







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