「お早うございます、有人様」
「ああ…お早う」

きちんと頭をさげて挨拶をするメイド達にいつも通り挨拶をした。きちんと制服を着て朝食をとりに降りると、父はもう既にその席にいた。

「お早うございます、父さん」
「お早う有人」

テーブルに置かれたトーストを一口かじって紅茶を啜った。

「手首の傷はもう大丈夫なのか?」
「はい、傷は浅かったので…」

手首の傷というのは昨日の割れた試験管の破片で切った傷のことだ。あの後、不動が一緒に保健室に付き添って来てくれたのには少し驚いた。心配してくれたのは素直に嬉しかったけれど。そういえば父さんにはまだ不動が転校してきたのを言ってなかったっけ。

「不動が転校してきたんですよ」
「…不動?…不動ってもしかして明王君か?」

紅茶を飲んで上げた父さんの顔は少し険しかった。

「そうですよ。覚えてますか?」
「…お前が昔遊んでいた幼なじみの子だろう」
「はい」

やはりそうか、と言って父さんはひとつ大きな溜め息を吐いた。その顔はなんともやるせないような表情で、テーブルの上に(多分無意識で)作られた拳がぷるぷると震えていた。

「…そうかそうか、元気にしているみたいでよかった。あの時は私たちに何も言わずに黙っていなくなってしまったから…。明王君のお母さん達も言ってくれれば良かったんだ、お金ぐらいいくらでも……」
「…父さん?」
「あ、いや…何でもない。今のは忘れてくれ…」

父さんは苦笑いをすると、手に持っていたカップをソーサーの上に置いて立ち上がった。

「父さ…」
「有人様、そろそろお間です」
「っ、」

時計を見ると確かにもう学校に行かなければならない時間になっていた。…父さんはさっき一体何のことを言っていたんだろうか。チッと舌打ちをして残ったトーストを口に突っ込んで、急いで歯を磨きに洗面所へ向かった。



「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」

家の門をくぐっても家の前の通路に雷門の生徒は誰もいなかった。まずい、これは遅刻だ。一瞬送ってもらおうか迷ったがやっぱりそれは駄目だと思い、鞄を一度肩にかけ直して走った。






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