「不動、次移動教室だぞ」
「あ、そう?どこ?」

不動と風丸が仲良く談笑しながら、教室から出ていった。あぁ、俺も行かなければ。机の中からペンケースだけを取り出して立ち上がった。
理科室はここからだと遠いから、少し早歩きで向かう。前に歩いている風丸と不動に何故か、もやもやした気持ち悪い何かが胸に広がった。俺はその気持ちの正体を、まだ知らない。






「鬼道!危ない!」
「え…?」

パンッと目の前で試験管が割れた音がした。チャリンとガラスの破片が舞って机や床やらに散らばる。反射的に目を瞑っていたから目にガラスは入らなかったが、破片のせいで少し手首が切れてる。教師の注意を聞いていなかったという完全な不注意だ。

「大丈夫か鬼道!」
「あぁ、佐久間…大丈夫だ」
「保健室に行ってこい。此所は俺が片付けるから」
「そうか…ありがとう」

カラカラと理科室の戸を開けて廊下に出た。手首の血が滲んで少しジンジンする。
いつもはこんな事ないのに。そもそも教師も何度も注意するようにと言っていた筈だ。はぁ…と重たい溜め息が零れた。

「鬼道!」
「?」
ばたばたと足音をたてて追いかけて来たのは不動だった。すると何故か、ずっとつっかえていた胸のもやもやが溶けるようにすっと無くなってしまった。

「どうしたんだ?」
「はぁ?どうしたんだじゃなくて、付き添いで来たんだよ馬鹿」
「そうか、ありがとう」
「…別に」

ありがとうと言われてか、少し嬉しそうに頬を緩めて俯いた。
昔より随分口は悪くなったと思う。しかし照れ屋なところは昔も今も変わっていなかった。…人見知りの癖は治ったようだが。

「人見知り、治ったのか?」
「…ん、まぁな」
「昔は全然人と喋らなかったのにな」
「うっせぇな、俺だって変わんだよ」

それもそうだな。
でも不動は昔は俺としか喋らなかったから、今は少し寂しくもある。

「む、昔の話はいいだろぉ?俺は今を生きてんだよ、今を!」
「はいはい。あまり大きい声を出すな」

そして保健室の戸を開けると、「授業中だぞ」と怒られたのは言うまでもない。






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