目を開けるとそこは真っ暗だった。きょろきょろと周りを見渡しても何も無い黒い空間にふわふわと浮いているみたいだ。
ふと背後に人の気配がして振り返ってみると、幼い碧の瞳をもった少年が一人立っていた。少年はふわりと笑うと微かに口を開いて、
「ゆうと」
どくん、と心臓が音をたてた。
それは少年の声にも、その笑顔にも覚えがあったからだ。しかし思い出そうとしても、なかなか思い出せない。
やがて少年はくるりと振り返るとだんだんと向こうへ歩いて行き、やがて姿は闇に消えた。
ヴーヴーと枕元の携帯が震えた。
「ん…」
枕元に手を伸ばしてアラームを止める。なにか懐かしい夢を見ていた気がする。
もそりとベッドから抜け出すと、カーテンをあけてふわりと欠伸をした。寝間着から制服に着替えて朝食をとって、歯を磨いて行ってきますと言って外へ出て。そしていつも通りの学校生活を送る、筈だった。
教室がいつもより騒がしい気がして吹雪に聞いてみると、どうやら転入生が来るらしかった。くるりと見回すと、使われていない机と椅子が一組、斜め前にある。きっとここに座るんだろう。「楽しみだね」と吹雪はにこにこ笑って言うから「そうだな」と軽く同意した。
チャイムが鳴ってから暫くして、担任と一緒に一人の青年が入ってきた。彼は白いメッシュのはいった髪をしていて、深い碧の瞳をしている。今朝見た夢の少年にそっくりだ。じっと彼を見つめていると、碧の双眼がこちらに向けられてばちりと目があった。
「え…」
どくんどくんと鼓動が速くなっていく。その青年と目があった瞬間、昔の記憶がぶわりと一気に押し寄せてきた。そうだ。昔家が近所で、よく一緒にサッカーをしていたけれど、いつの間にか彼は引っ越していて…。
担任は黒板に彼の名前をすらすらと書き始めた。そうだ、思い出した。彼の名前は、
「明王…」
明王は少し驚いた顔をしたが、またすぐに表情を戻した。すると今度はふわりと笑って、
「有人」
確かにそう言った。