お金では買えないらしい
なまえがその日、泣きながら店にやってきた。別に今日は定休日で、なまえが出勤する必要性はない。
ティファが訳を聞いているのを横目に、わざとルート確認をゆっくりとする。俺はこれから配達に行かなくてはいけないが、訳が気になっては仕事もままならない感じがした。
なまえが言うに、さっきまで友達の誘いで合コンのようなものに行っていたらしい。そこで出会ったひとりの男が、なまえにしつこくこう言い寄ったそうだ。
「金ならある。俺と付き合え」と。
なまえは拒否を続けたが、男は懲りずずっと言い寄り続けた。挙げ句の果てに、いくらか貢ぐと言い出したそうだ。
メテオ災害から二年。まだまだ貧乏な奴も多い中、金はまさに宝ではある。
しかしなまえは拒否を止めなかった。
「私っ…ずっと言ったんです……。私には、好きな人がいるから……って。そしたら…っ」
俺はなまえに好きな奴がいたことにも衝撃を受けたが、その先に続いた言葉に更に衝撃を受けた。
“どうせそいつは俺より貧乏だろ? そんな相手との恋に価値なんてない”
奴はなまえにそう言ってのけたのだ。
なまえは怒りを抑えきれず、奴に一発見舞ってからここまで来たそうだ。
なまえの好きな奴なんて俺は知らない。貧乏なのか金持ちなのか、それも分からない。
だが、貧乏にしろ何にしろ、なまえが抱いた恋心に価値はちゃんとあると思う。その2人の間に芽生えた恋には、金ではどうしようもできない価値があると思う。
奴はそれを理解出来ていなかった。奴がなまえに恋心を抱いていたかは知らないが、少なくとも“金でどうにかできる”と考えていたのだろう。
「…なまえ」
俺は広げていた地図を畳んで、なまえの前に立つ。近くで見ると、目元が赤くなっているのがわかった。
「その…奴はあんたの気持ちを金で買えると思っていたから、あんたにそうやって言ったんだろ」
だが、それは誤った考え。
「…あんたのその恋には、金ではどうしようもできない価値がちゃんとある。だから、気にするな」
「…クラウド…さん…っ」
「クラウドも言うときは言うのね」
ティファに言われ、意外にも色々言っていた自分に気がつく。
なまえが泣いてやってきた時から、話しているときもずっと、俺の頭はなまえのことでいっぱいだった。
彼女を泣かせた男も許せなかったが、それ以上になまえの涙を見ていられなかった。
俺、どうかしてるのか?
なまえのことになるとどうも、いてもたってもいられなくなる。
この気持ちもなまえのそれと同じなのか?
知らないうちに生まれたこの気持ち。きっと、いくら金を出そうとも買えるものではない。
それはなまえも俺も、同じなんだ。
お金では買えないらしい
(あんたの涙が、教えてくれた)
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