title | ナノ

些細なことをきっかけに生まれるらしい



 最近店でバイトを始めたなまえという奴は接客が上手いとティファが褒めていた。だからといって興味なんて湧くわけがなく。

 そんな中、偶然俺が休みの日にそのなまえという奴が出勤してきた。ティファはすぐに出迎えていたが、俺は…知らない人だしな。

 挨拶する気すらあまり出てこなかったから、黙って近くの席で水を口に含む。

「じゃあ、今日もよろしく頼むわね」

「はい!…で、この人は?」

 なまえがおもむろに俺を指さす。

「この人はここで一緒に暮らしてるの」

 名前まで言ってくれず、目線だけ投げかけているところからするとこれは「自分で言え」ということか。

「…クラウド、だ」

「クラウドさんですね!私はなまえといいます。よろしくお願いします!」

 満面の笑みと溌剌とした声。何だか、可愛らしい奴だ。

 その後、なまえは仕事に戻っていった。俺は黙って部屋に戻ろうと座っていた椅子から立ち上がる。

「あ、クラウドさん!」

「ん?」

 仕事に戻っていった筈のなまえが不意に声をかけてきた。

「えと、配達業…してるんですよね?」

「まぁな」

「じ、じゃあ、その…これからは、クラウドさんに配達…頼んでも良いですか?」

 顔を真っ赤にして言ってくるその姿に心臓がバクバク、うるさいくらいに高鳴る。

「あぁ…構わないが…」

「あ、ありがとうございます!じゃあ、わ、私、仕事戻りますね」

 林檎のように真っ赤な頬を弛ませ浮かべた笑みが脳裏に焼き付く。何だか、天使を見ていたような気がする。

 ただ配達を頼まれただけ。これからよろしく、みたいな宣言をされただけなのに。







 今日の俺、何か変だな。







 足早に部屋へと戻り、気を紛らわせようと伝票を手にする。今日は休みだが、伝票整理くらいはしよう。

 下からなまえが接客する声が聞こえ始める。開店したのか。

 伝票整理をする手を止めてなまえの声に耳を傾けている自分に気がついて、心持ちびっくりした。興味なかったんじゃないのか、そう自問する。










 ―――――まさか、これが?










些細なことをきっかけに生まれるらしい
(何気ない会話だった筈なんだ)


title→確かに恋だった様。




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