valentine project | ナノ







 チョコレートを貰った。
 クラスの女子で、名前はアンリ。オレの隣の席に座る、大人しそうな子だ。更に言えば、オレの初恋で片思い中だった女子。
 バレンタインデーにチョコレートを貰った事は何度かあるし、それ自体はあまり驚かない。そういう日なのだから。
 だが、まさかアンリから貰うとは……これは夢か?


「……随分とご機嫌なようだな、ティーダ」
「あったり前ッス…………あ」


 あからさまに不機嫌な声がして、“バレンタインデーの奇跡”を思い返すタイミングを見事に間違えたことに気がつく。はっとして前を向けば、腕を組んで立つ金髪の教師が1人。
 彼は学校の教師の中でもダントツにモテる英語教師、クラウド・ストライフ先生。そしてオレのクラスの担任でもある。
 そういえばオレ、英語の補習中だった。


「……はぁ、まあいい。ちょっと休憩だ」
「えっ、クラウド先生、何かいいことでもあったッスか?」
「どうしてそうなる?」
「だって先生の辞書に休憩なんて言葉なさそうッス」
「あんたは俺を鬼教師だとでも言いたいのか?」


 確かに怒ったら鬼ッスけど。とは言わない。
 机の上に置かれた単語書き取り用ノートから逃げるように視線を窓の向こうへ向ける。3月にもかかわらず雪がちらついていた。
 あ、そうだ。せっかくだし聞いてみるか。


「先生って、バレンタインのお返しとかちゃんとする方ッスか?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「そのー、何をお返しに渡したり……?」


 アンリからチョコレートを貰った。それは非常に嬉しいこと。更に更にラブレターまで入っていたとなると、舞い上がらないわけにはいかない。
 が、そんな舞い上がってもいられないのが現状だった。
 『お返事はいつでも構いません』と手紙には書かれていたが時間をかけるわけにはいかない。しかし、何かのタイミングで返した方が気持ち的にいい。
 というわけでオレはホワイトデーを利用することにした。


「でも何をお返しにあげたら喜ぶか分かんなくって……」
「別に、あんたが渡すものなら何でも喜ぶんじゃないか?」


 え、何それ、どういうことッスか?
 そう聞いてみるとクラウド先生は「そういうことなんだ」と言って席を立つ。


「ホワイトデーは明日だ。今日はもういいから、お返し買いに行ってこい」
「えっ、でもまだ終わってな……」
「宿題にする。明日の朝必ず出せよ」


 そう言ってクラウド先生は一瞬だけ微笑んだ。クラスの女子に見せたら卒倒するであろう、まさにキラースマイル。
 先生ありがとうございます、この恩は必ず返します。とりあえず明日朝一番で宿題出します。
 心の中で感謝と誓いを述べ、荷物を纏めコートを着てからオレは全力疾走で教室を後にした。


 返事はもう決まっている。
 後は、何を買うかだけ。





そうだ、先生に聞こう。
(次の日、悩んだ末に買ったマカロンをあげたら大喜びされた)



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