レシピを見ながら混ぜるドロドロのチョコレート。
形になったら、私の覚悟も決まる予定。
先輩に作るなんて、人生初だった。中学生のときは友チョコしか作らなかったし、高校に入ってからも変わりないだろうと思っていた。
しかしまさか、こうなるとは。自分でも驚きである。
きっかけは後期中間考査の時期。疲労感に負け、ふらふらと正門を抜けた私はぼーっとしたまま車道を横断してしまいそうになった。車も来ていて、後から考えると恐ろしい状況。
そんな死を覚悟するような状況から私を救ってくれたのは、1人の先輩だった。
《疲れてんだろうけどさ、気をつけなきゃ駄目だぜ?》
名を、バッツ・クラウザー。私より一年先輩の二年生で、友人の話によるとクラスでは賑やか担当らしい男子。
単に騒がしいだけの男子ならいくらでもいるが、彼は違った。その後も度々見かけたりしたが、いつでも彼は優しい空気を引き連れていた。
周りが自然と笑顔になるオーラ。
何故かほっこりする笑顔。
企みや計画から程遠い無邪気さ。
今までで一度も遭遇したことがない、あの邂逅だけで人を惹きつける魅力を持つ人がまさにバッツ・クラウザーという人間だった。
「……よしっ!」
作るのはチョコケーキだ。周りはトリュフやブラウニーなどが多かったので、あえてケーキにしてみた。
みんなと違えば印象にも残るかな、なんて考えもあったりする。
ようやっと温めておいたオーブンに生地の入った型を入れる過程まできた。時間的には長かったが、体感的にはあっという間。
“あたためスタート”とかかれたボタンを押し、クルクル回りだした型を眺める。
日付も変わって夜中の1時。今日の放課後が勝負。
相変わらずクルクル回る型を見つめながら、最初の一言を考えた。
真夜中恋愛賛歌(オーブンの前で考えるのは、彼のことだけ)
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