一周年企画 | ナノ




scene 4.知ってしまってもいいですか?







 仕事が終わったのは、夜9時を回った頃だった。
 普段ならばもうすぐクラウドから電話が来るはずなのだが、今日は無い。その代わり、別の人物から連絡が入っていた。


《えっと、私、エアリスです。仕事が終わってから、少しだけ会ってくれないかな?》


 仕事中だったため留守電に入っていたエアリスの声はどことなく暗くて、私は何となくだが話の内容を察した。
 ザックスと、エアリス。
 2人の間にある、別れ話についてに違いない。
 指定された場所は仕事場から程近いレストランだった。普段からエアリス、ティファ、私の3人で食べにくるお店だ。
 いつもの席に、エアリスはいた。が、俯き気味でやはり元気がない。


「エアリス」
「あ、ライナ。ごめんね、疲れてるのに呼び出したりして」
「ううん、いいの。大丈夫」


 エアリスと向かい合わせに座る。と、店員が私の分の水を置いていく。
 それを一口飲んでからエアリスを見つめると、タイミングを見計らっていたかのように彼女は口を開いた。


「ザックスとの話、聞いてる……かな?」
「え、あ、ま、まあ……」
「……どんな風に、聞いてる?」


 言っていいものなのか、かなり悩んだ。何せ、あの発言がある。
 だが、無言というわけにもいかないのでとにかく話すことにした。あの発言は伏せておいて、状況だけ話す。全部話すのは、気が引ける。


「……おかしい、な」
「え?」
「別れ話を切り出したのは、私じゃなくて、ザックス」


 だからエアリスがあんなに落ち込んでいたのか、と納得がいく。
 が、謎が残る。
 何故ザックスは私に嘘をついたのだろう。
 わざわざエアリスが別れ話を切り出したんだと嘘をつく理由は何なんだろう。


「いきなりだったの。ザックスがね、好きな人がいるから別れたいって」
「そんな……」
「その時は誰だか分からなくて、聞いたけど答えてくれなくて。ザックス、出てっちゃったの」


 好きな人。
 まさか、嘘だ。


《ライナが好きって――》


「ライナ?」
「……ザックスは何で、嘘をついたんだろう?」


 嘘をつく理由が分からなかった。意味が分からなかった。私に嘘をついて何の得があるのだろう、とさえ思った。
 唐突とも言える問いに、エアリスはうーんと唸る。


「……私は、別れ話を切り出されたときにティファに電話したの。ライナは仕事だって分かってたから、ね。ザックスもきっと、私がライナに相談してないの、分かってた」
「だから私……か」
「でも、それだけじゃない。きっとザックスはライナだけでも味方につけたかったんだと思うの。だって……」


 ザックスの好きな人、ライナだから……。


 どうしていいか分からなくなった。何て言っていいのか、私は今何をしたらいいのか。
 言葉に迷っていると、エアリスは責めるわけでもなく困ったように笑った。
 エアリスは全部見抜いている。ザックスが私のことをどう思っているのか。全部、分かっていた。
 その時は分からなくて。今は分かっているということを暗示するようなその言葉。見抜けなかったのが、自らの未熟さの証拠となって現れる。


「エアリス……」
「ライナが好きになっちゃってザックス、きっと考えたんだよ。私が相談してしまう前に、何とか味方につけないと、って」


 嘘をついてでも、私を味方につけたかった。
 自分が振ったと知れれば、女の友情で結ばれたエアリスに味方してしまう。さらにはそれが原因で自分に対する印象ががらりと変わってしまうかもしれない。
 幻滅されてしまうかもしれない。
 だから嘘をついて、私を騙して、味方につけた。自分が悩む姿を見れば、悲しむ姿を見れば、同情する。励ましてくれる。


「……ザックス、私のこと嫌いになっちゃったかな…」
「そんな、嫌いなんて……!!」
「でも、ザックスの目は私に向いてない…から」


 再び俯き、エアリスはそれ以降何も話さなくなってしまった。





 ――彼女を何とかしてあげたいと思った。
 私にしか、ザックスの気持ちを変えることは出来ないんだとやっと分かった。
 やれることは、やるしかない。


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