scene 2.告白してもいいですか?
時間より5分早くティファの店の前に着いたにも関わらず、ザックスは既にそこにいた。
彼の目がふいにこちらを向いたので軽く手を振れば、相変わらずの笑顔を浮かべる。電話越しの声があまりに元気がなかったからか、その笑顔すら安心感を持たせる重要な要素になっていた。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、俺もさっきついたばっか」
会話しながら店の中に入る。ザックスは、迷わずカウンターから一番離れた窓側の席を取った。
おかしいな。
いつもなら、カウンター席を取る筈だ。クラウドとエアリスを加えた4人で店に来たときも例外ではない。ティファとよく話せるようにと言っているうちにいつの間にか無意識に取ってしまうようになっている、言わば癖だった。
なのに、取らない。
今回の相談、ティファにすら聞かれたくないのか。
馴染みの店は何となく肩の力が抜け、確かに相談するにはいい場所だとは思う、けど……。
「――ライナ」
「えっ、あ、何?」
「何? じゃなくて、注文。何にすんだ?」
ん、とメニューを渡されようやく何をすべきか把握する。
受け取って見てみるものの、何だかそれどころではない私の脳内。昼間だからお酒は控えよう。
「とりあえず、アイスカフェオレにしようかな」
「りょーかい」
ザックスがティファを呼ぶのを見ながら、また考え事を始める。
誰にも聞かれたくないのに、どうしてティファの店を選んだんだろう。
確かに、馴染みであるが故の何か安心感とかあるのかもしれない。見知らぬ高級レストランで相談事なんて、私はしない。
「で、よ……」
私達の注文をとったティファがカウンターの奥に消えていったのを確認すると、ザックスが口を開く。
「あ、そうだったね。相談事、でしょ?」
「ああ。俺にも何でこうなったか全く分かんねえんだけど……」
それを聞いた瞬間、え?と言うことすら出来なかった。
「えっと、ごめん。もう一度、言ってくれる?」
「……エアリスと、別れることになった」
クラウドと私が付き合う前から付き合っていたザックスとエアリス。告白したとザックスが大騒ぎしていたのは、確か学生時代……高2だったか。
そしてついこの間、2人が結婚式がどうこうと話していたのをクラウドとティファと聞いていた覚えがある。もうそこまで来たんだね、としみじみ思ったりもして。
なのに、別れることになったらしい。
「何で?」
「分かんねえから、困ってんだって」
彼の様子を見るに、本当に心当たりがないようだ。
この手の話は絶対ティファの方が上手くアドバイス出来るだろうが、やるしかない。
「まずはザックスにエアリスと別れたくないって言う意志がちゃんとあるかだよね」
「んー……それがよ、微妙なんだよな」
「え?」
待て。何とかしたいから相談したのではないのか。
「いや、その……な。確かにエアリスとは離れたくない。うん、それは思ってる。し、何でいきなり別れ話を切り出されたのかも知りたい」
「じゃあ、何で微妙なの?」
「知りたいし離れたくもないけど、それとは別の気持ちが湧いてきて……どっちに従うべきか分かんねーって感じ」
「別の気持ち?」
離れたくないと思いながら、しかし、それを邪魔するもう一つの気持ち。
簡単に考えれば、マンネリ化の果てに離れたくなった、だが。
考えて、ふとザックスを見ると真っ直ぐ私を見つめていた。いつもの視線とは明らかに違う。そう、これは――。
何故、を考える前にザックスが私から目を離さないまま口を開く。
「別の気持ちってのは、よ」
「……うん」
ザックスの右手が、私の左の頬を撫でる。
「ライナが好きって、気持ちなんだよな」
――まずいと、思った。
あの目は間違いなく、そうだったから。
クラウドが私を見るときの、あの目。ザックスがエアリスを見ていたときの、あの愛おしげな目。
それと、同じだったから。
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