scene 1.相談していいですか?
それは突然だった。
クラウドと同棲を始めてまだ半月。慣れないことも多いが、一生懸命やっている。充実度は高いし、まさに人生を満喫中だ。
そんな私にかかってきた一本の電話。仕事も休みのため家事に勤しんでいたその手を止め、リビングのテーブルに置いてある携帯を手に取った。
開けば、番号とその上に表示された“ザックス・フェア”の文字。
「はい、もしもし」
「……俺、ザックス…だけど」
「どうしたの? 何か、元気ないよ?」
元気が取り柄のザックスが柄になく落ち込んだ様子だった。それは顔を見ずとも分かるくらいはっきりとしていて、ますます戸惑う。
彼がここまで落ち込むということは、ただ事では無さそうだ。
「いや、その……まあ、色々あってよ。ちょっとライナに相談しようかなぁ、とか……思ってさ」
「また、どうして私に?」
「話の内容聞けば分かるから。なあ、駄目か?」
かなり曖昧な回答。そこも少しザックスらしくない。やはり相当の大事件が発生したようだ。
いいよ、と返事をするとザックスは午後1時にティファの店で待ち合わせようと言ってきた。それにまたいいよ、と返す。
「あのよ、クラウドは今日……仕事だよな?」
「そうだけど、どうかした?」
「いや、ちょっと気になっただけだ。気にすんな」
ザックスの言葉に小さな疑問符を浮かべながらも、とりあえずはと話を済ませ、電話を切った。
いったいどんな悩みなのだろう。私が相談相手でなくてはならない悩みなんてあるのだろうか。
女という生き物に関する話ならばエアリスでもティファでも事足りる。いや、むしろ彼女達の方がいいかもしれない。私にはいいアドバイスが出来る自信がいまいち持てない。
それに加え、ザックスにはエアリスがいる。学生時代、友人から様々な相談を持ちかけられ、スクールカウンセラーさながらの的確な回答をしていた経験を持つ彼女がいる。今だって私やティファはエアリスを頼ってしばしば家を訪ねているし、ザックスもそれは知っている筈だ。
私なんかよりずっと役に立つはずの自分の彼女ではなく、私に何故相談するのか。
それに、気になることがもう一つ。
《あのよ、クラウドは今日……仕事だよな?》
クラウドが休みだったらどうなるのだろう。彼はいるべきではないのか。
私にしか答えが出せない相談の中身。クラウドが不在でなくてはならない理由。
普段ならそういう事もしっかり話してくれるはずなのに、ザックスは話してくれなかった。気が回らなかったのか。それほどまでに落ち込んでいるのか。
どちらにせよ、一生懸命話を聞いてあげなくては。私は私に課せられた役目を果たそう。そうしたらきっとザックスも元気になってくれる。
時計を見ると12時を指していた。あと1時間。ティファが経営するバーまでここからだとそう時間はかからない。
先ほどまでの考え事をとりあえずは破棄して、身支度をすべくつけていたエプロンを外した。
――この時の私は知らなかった。
賽は既に投げられていたということを。
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