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 最近彼に会えていない。
 仕事が忙しいことは分かっている。テレビの向こうで一生懸命頑張っている姿を見ない日はなかった。
 ドラマ、映画、バラエティー、そして歌。全てをこなすのだから暇なんてありはしないしそれくらい覚悟の上だった。
 だが、私は作曲家である前に彼のパートナーで、パートナーである前に彼女であり女だった。曲を1日に何曲も書き上げ、しかしながら全て彼に対する会いたいという気持ちが具現化してしまう。それが情けない。
 そんな事を考えながら書いた曲はまたもや彼への気持ちが具現化した作品となった。それがやってられなくて、譜面をくしゃくしゃにしてゴミ箱に放り投げる。
 ――情けない。
 メールが来ない日もあった。電話が来ない日もあった。何日もテレビの向こうでしか声が聞けないなんて、よくある話だった。
 慣れてたはずなのに。
 我慢すると決めたはずなのに。
 気付けば彼のことしか頭になかった。


「……はぁ」


 ため息が零れた次の瞬間、静寂を切り裂くように鳴り響いたのは心のどこかでずっと鳴るのを待っていた着信音。
 すぐさま携帯を手に取り、一応表示を確認。間違いない、表示されていた名前は紛れもなく彼の名前だ。


「もしもし」
『こうして話すのは久し振りですね。元気にしていましたか?』
「私は大丈夫。そういうトキヤこそ大丈夫? 最近忙しそうだから……」
『確かに忙しいですが、問題ありません。ただ……』


 電話越しのトキヤの声がどことなく寂しげになり、私は無意識に全神経を右耳に集中させる。


『君に会えていないせいか、寂しくて眠れません』
「えっ!? それ全然問題ないとは言えないよ! えーっと、待って、今すぐ安眠効果のあるやつとか調べるから……」


 そういえば最近雑誌で特集されていたような気がすると慌ててしまってあった雑誌を引っ張り出していると、電話越しでトキヤが大々的にため息をついた。


『……まったく、相変わらずですね。そんな事、調べずとも分かるでしょう?』
「え?」


 どういうこと?
 聞き返す前に今度はインターホンが鳴った。


「あ……」
『来客ですか? ……待たせては失礼ですから、早く出てください。私は終わるまで待っていますので』
「あ、うん、ありがとう。じゃあ、ちょっと待っててね」


 言って携帯のマイクに手を当てると急いでモニターを確認する。が、人影とおぼしきものはない。
 映っていないだけだろうがどちらにせよ出なくてはならないと、仕方なしに玄関に向かいドアを開ける。
 刹那、私は目を疑った。


「えっ、嘘っ、何で?」
「今日明日はお休みをいただいたので」
「いや、でもそんな話一言も……」
「言ってはサプライズにならないでしょう? 本当ならメールや電話でも良かったのですが、どうしても君に会いたくなってしまって」


 驚きましたか?

 悪戯な笑みを浮かべる彼に、私は思わずドキドキする。
 この電話が切れたら、また声が聞けなくなってしまう。また、テレビの向こうで笑う彼を遠くから眺める毎日が始まってしまう。そう、どこかで考えては涙が出そうになった。
 切れないで。そう、情けなくも思ってしまった。
 会いたい。
 そう、ずっと願っていた。


「驚いたよ、ばか…っ」


 だから、この溢れる涙は嬉し涙。
 私は涙を拭うことすらも忘れて、ただ想いのままにトキヤに抱きついた。






(貴方という存在を感じながら、眠りたい)