太陽がくれたモノ | ナノ


20 epilogue [ 26/27 ]



>>>ティーダ視点



 部活部活の毎日を送っているうちに夏休みは過ぎ去っていき、遂に最終日を迎えてしまった。
 偶然部活も休みだったため、オレはちょうど家にいたスコールを連れてまだ暑い夏空の下に躍り出た。何で俺なんだとか散々文句も言われて、バッツとかでもいれば良かったのになと思ったりもしたがあえて口にはしない。
 見慣れた住宅街を抜け、街を抜け。ある程度歩いてから住所と地図の書いてあるメモを眺める。


「こっちの方、よくわかんないッスね」
「……次の角を、右だ」
「え、スコールここ来たことあるのか?」
「生徒会の先輩の家が近くにある」
「あ、なるほど」


 そういえば何回か先輩の家に言ったことがあるんだっけか。考えて納得したあとに、やっぱりスコール連れてきて良かったとか思う。もちろん、口にはしない。
 地図とにらめっこしながら慣れない住宅街を歩いていく。
 時折スコールがここは違うだとか次は左だとかサポートしてくれた。いつもの無関心さはどこへやら、案外熱心にサポートしてくれるものだから途中でついつい吹き出してしまいスコールに睨まれた。睨まなくたっていいだろ、とはさすがに言わせてもらった。
 そんな事をしながらようやく着いた目的地。


「ここが、アンリの家…」
「……」


 無言で家を眺めるスコールの横でオレはぼんやりと呟いた。
 花がたくさん咲き誇るレンガ造りの家だ。何となくだがアンリのイメージに沿ったような可愛らしい雰囲気が漂っていて、童話か何かで出てきそうな感じがする。
 家を出てからも何度かアンリはオレ達に会いに来てくれた。表情も明るくて安心はしたが、何せ告白して恋人という関係になったものだから最初はちょっと緊張した。今はもう慣れてしまったけれど。
 しかしこうしてアンリの家に来るのは本当に初めてだから、かなり緊張している。


「インターホン、押してもいいッスか?」
「あぁ」
「……よし、行くッスよ」


 ピンポーン。
 よし、押した。
 程なくしてインターホン越しに彼女の声が聞こえてくる。緊張しながらも軽い会話を交わしてからすぐに玄関のドアが開いた。


「アンリ、久しぶりッス!」
「どうやら元気にやっているみたいだな」
「おかげさまで。あ、入って。ちょうどお兄ちゃんと一緒にクッキー焼いたんだ」


 笑顔で入るように促され、オレ達は家にあがらせてもらう。
 リビングに通され、適当に座ってすぐアンリが冷たいお茶を差し出してくれた。相変わらず手際がいい。ティーダも見習え、とかスコールに言われそうだから目は合わせないでおこう。


「そういやディアは?」


 冷たいお茶で喉を潤しながら問いかける。どうせなら会って帰りたい。
 スコールにもしっかり事情は説明したし、ディアもアンリが家に帰る日に迎えに来てその場でオレ達全員に何度も頭を下げている。会って気まずくなる心配はない……と思う。
 あとはオレが何とかしよう。そう思った矢先、アンリとスコールが「あっ」と声を揃えて言った。


「……あ」
「ティーダと……スコールか。久しぶりだな」


 妹が男を家に上げ、かつ話までしているのに平然と挨拶をしたのは紛れもなく兄のディアだった。その表情からは狂気のきの字も感じない。


「久しぶりッス。どうッスか、最近は」
「まぁ、まずまずだな。お前のとこの奴らだったら……まだ信じられる方だ」
「じゃ、今度オレ達の家に遊びに来いよ。セシルとかクラウドとかがゆっくり話してみたいって言ってたからさ」
「…いつかな」


 言って、ディアは微かに笑った。とても穏やかな笑顔で、オレもつられて笑ってしまう。
 アンリが出してくれたクッキーをつまんで会話しながら、とても和やかな時間が過ぎていった。ある時はオレがふざけてディアに本気で睨まれて、またある時はスコールがいじられてみんなで笑って。
 そんな穏やかな時間がまるで当たり前のように過ぎていく。
 家を出る前にアンリはオレに「問題が解決したのも何もかも、みんなティーダのおかげだよ」と言っていたが、今訂正してもらいたい。
 ディアがこうして笑えるようになったのも、今穏やかに会話が出来るのも、みんなアンリが頑張って立ち向かったからなんだ。


(本当すごいッスよ、アンリは)


 スコールとディアと話しながら笑顔を浮かべるアンリをこっそりと見つめながら、オレは自分の口元が緩むのを抑えることが出来なかった。





 ――こうしてオレ達のいつもと少し違う夏休みは、一人の少女が生んだ平穏の中で静かに幕を閉じていった。





Fin.
Thank you for reading.




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