18 Please believe this world. [ 24/27 ]
>>>アンリ視点
語り終えたディアは自嘲気味に笑って、ベンチに腰掛けた。
まさかそんな出来事があったなんて知らなかった。私は寝ぼけていたのだから仕方ないと言えばそれまでなのだが。
親友に裏切られ、学校でもそんな話ばかりで。疑わないはずがない。
「アンリを守るためなら何だってしてやる。そう決めてから、急に外の世界が醜く見えた。こんな世界にアンリを送り出したくない、ずっと家にいればいいのに。そう思った」
だが、そういう訳にもいかない。当時の私はまだ中学2年生で、否が応でも外に出なくてはいけない理由があった。
だから、ああするしかなかったのかもしれない。歪み始めたディアの思考にはあのやり方しか浮かばなかったのかもしれない。
守りたい。
その思いは2人とも同じだというのに、こんなにも違う。それを痛感しながらも、私は頭の中で何とか整理した言葉をゆっくり発した。
「お兄ちゃん、私……その話を聞いてもやっぱりみんながみんなそんな人だって思えないよ」
「理由は?」
「ティーダの周りにいる友達も、家にいるスコールやジタンやバッツ、セシルさん、オニオンくん、フリオニール、クラウドさんも良い人だから。優しいから。
……昔のお兄ちゃんみたいに」
ディアは目を見開く。私はなおも話を続けた。
「話を聞いて、私思い出せたの。お兄ちゃん、昔はすごく優しかった。怖くなかった。不器用でなかなか家のことも出来なくて呆れたりした日もあったけど、怒られてお兄ちゃんなんか大嫌いなんて思った日もあったけど、それでも私……幸せだったよ」
「……」
「だから、そんなお兄ちゃんが変わっちゃって私……すごく悲しくて。すごく辛かった。私のせいでお兄ちゃんは私の周りの人をどんどん傷付ける人になってしまって、だから、怖くて……辛くて…………寂しかった」
あの日を機に、ディアは変わってしまったのだろう。はっきりと覚えてはいないけれど、おそらく間違いない。
中学2年生の夏から、ディアの態度が激変した。男と関わるな、外は危険な奴しかいないから。そう言い始めたのはあの頃からだった。
怖いと思う一方で、悲しかった。自分の知る兄はもういないのかと思うと、いくら泣いても泣き足りなかった。
そんな気持ちを“怖い”という感情がどんどん蝕み、知らず知らずのうちにディアを恐怖の存在や束縛する鎖としか認識できなくなっていった。
でも、それだけじゃない。
私の兄は、確かに優しかったんだ。
「ねぇ、信じてみようよ。今だってお兄ちゃん、ちゃんとティーダのこと信じられた。だから、出来るよ」
「それは……例外だ。そいつのような奴ばかりとは限らない」
「それでも。信じてみよう? みんな良い人ってわけではないけど、みんな悪い人ってわけでもないから」
座ったせいで私より目線の下がったディアがゆっくりと見上げる。
本当に、信じていいのか?
そう問いかけられた気がした。
「ゆっくりでいい、信じようよ。私も協力するから……一緒に信じてみようよ。1人ずつ、ね?」
「アンリ……」
「オレも、協力するッス。……協力したいんだ」
私の横でディアに真剣な眼差しを向けるティーダ。それをちらっと見てから、再びディアに目を向ける。
ディアはただ静かに、俯いていた。
「……アンリ」
「何?」
「信じても、いいのか? こいつも……外の奴も」
信じたい。本当は信じたい。その気持ちがひしひしと伝わってくる。
私はわざとらしくかつ大袈裟に頷いた。
「一緒に信じよう。私とティーダと一緒に」
「…………分かった」
そう言ってディアはまるで憑き物が落ちたように清々しく屈託のない笑みを浮かべた。
――まさにこの瞬間、3年ぶりに私の兄は帰ってきたのだ。
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