太陽がくれたモノ | ナノ


16 道を違えた青年、道を照らし出す少年 [ 22/27 ]


「俺が、おかしいって?」


 目の前で感じる兄の威圧感は、半端なものではなかった。指先が震える。
 真っ向からこうして立ち向かうなんて今までしたことがなかっただけに、体が拒絶している。ここはお前がいる場所ではないと警鐘を鳴らす。
 だが、逃げるわけにはいかない。
 ティーダがそうしたように、私も。


「確かに、怖い人も危ない人もいると思う。けど……全員がそうじゃないと思う」
「……」
「……ティーダは、すごく優しいよ。いつも私を励ましてくれて、私が持ってないものをたくさんくれた。絶対、お兄ちゃんが言う危険な男なんかじゃないよ」


 クラスでも、あの家でも。ティーダはいつも私に笑顔をくれた。支えになってくれた。
 ディアが言う危険な男には絶対当てはまらない。
 そういう人も、ちゃんといる。いや、そういう人がたくさん世の中にはいる。
 それを分かってほしくて、必死に言葉を選んでは慎重に発していく。


「……」
「だから、ねぇ、お兄ちゃ――」
「こいつも、いつかお前を襲うぞ」


 突然、遮るようにディアが言う。


「いい面してられるのも今だけ。どうせ隙をついてアンリ、お前を襲うに決まってる」
「なっ、何を言ってるの?!」
「オレは絶対にそんなこと――」
「そんな言葉、信用出来るか!」


 叫んだ後の荒い息のまま、ディアは私の肩をがっしりと掴む。視界の端でティーダが動いたような気もするが、漂うおぞましい何かに圧されたのかそれ以降のアクションはなかった。


「アンリ、お兄ちゃんと帰ろう? お前を必ず守るって、約束するから」
「お兄ちゃん、わ、私……」
「帰ろう? なぁ…っ、帰ってきてくれよアンリ!」


 肩を掴む手に力が込められ、ぐぐっと指が食い込む。
 痛みに耐えつつも何とか目をそらさまいとして視線を上げた時、私の体を電撃が走り抜けたような衝撃が襲った。
 瞳の奥にある感情を、確かに私は見た。怒りに歪んだ表の感情とは裏腹の、隠されたもう一つの感情。
 まさか、そんな。


「……なぁ」


 驚愕する私の横で、今まで黙っていたティーダが口を開いた。


「あんた、昔何かあったんスか?」
「…?」


 唐突なその質問にディアは訝しげにティーダを見つめる。
 私もまた、質問の意味が分からなくて同じように彼を見つめた。


「さっきあんたが言った、帰ってきてくれよって言葉……何だかそれまでの言葉と全然違ってたんだ。込められた気持ちっていうか、そういうものが全然違ってた」
「……」
「オレさ、ただあんたのこと最低な兄貴って思ってた。でも、さっきの言葉を聞いて、間違ってたかもしれないって思ったんだ」


 静寂の中、ただただティーダの声だけが響き渡る。ディアは先程とは打って変わり、無言でティーダの言葉を聞いていた。


「……アンリのこと、本当はすごく大事に思ってるんだろ? 何よりも大事で、だから本気で守りたいって。大切な家族だから、誰よりも何よりも愛しい家族だから」
「!!」
「だから、分かんないんスよ。あんたがどうして、アンリが嫌がるような……不幸せになるようなやり方しか出来ないのか」
「……それ、は」
「オレ、知りたいんだ。あんたがどうしてこんなやり方をしたのか」


 オレもさ、アンリを守りたいって思ってるから。


 真剣な眼差しでそうはっきりと言った彼を見て、心臓が大きく脈打つ。
 守りたい。
 ティーダが、そんなことを思っていたなんて想像もしていなかった。今まで支えられたりしてきたものの、あくまでそれは他にも向けられる優しさだと思っていた。
 だが、違うのかもしれない。


「お前もアンリを、守りたい?」
「ああ」
「……本気で言ってんのか?」
「当然ッス」


 私が色々と考える横で、ディアとティーダがじっとお互いを見つめ合っていた。まるで試すかのように無言で、ただただ見つめ合っている。
 永遠のような一瞬が過ぎ、先に目をそらしたのはディアだった。そして先程から肩を掴んでいたその手を離し、小さくため息をつく。


「……お前になら話せそうだから、話してやる。あとアンリにも、聞いてほしい」
「私、にも?」
「多分、今が話すときだと思うから。聞いてくれるか?」
「…うん」


 頷いてみせると、ディアはさっきの様子からは想像もつかないような穏やかな笑みを浮かべた。
 何年振りだろう、こんな笑顔を見たのは。


「……始まりは今から3年前。俺がまだ高校生だったころの話だ」




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