13 消えない束縛――決意 [ 19/27 ]
ティーダのおかげで少し軽くなった気持ちを抱いて、私は部屋を出た。先程逃げてしまったあの事実と、もう一度向き合う為に。 彼の話によると、私が出て行ってからリビングでは今後について話し合われたらしい。ティーダはほとんど話し合いに参加しないまま私のところに来たため、内容についてはあまりよく知らないという。 どちらにせよ、今後については考えなくてはならない。恐怖がないとは言えないが、迷惑をかけないためにも私は私のやり方で兄と、ディアと向き合っていかなくては。 考えているうちに到着したリビング。みんなが心配そうに見つめる中、深呼吸をする。
「……みんなに、言いたいことがあるの」
私はもう一度深呼吸をしてから、再び口を開いた。
「私……気付いたの。私のためにも、皆のためにも、ちゃんと向き合わないといけないって」
逃げてばかりじゃ、いけない。
「立ち向かって、ちゃんとお兄ちゃんに分かってもらわないとって」
歪んだ思考を、それで直せたなら。
「だから私、」
戦いたい。 言い終えてから、みんなを一通り見る。こんなことを言ってしまったが、皆はどう思うのだろうか。
「分かったよ。なら僕も協力しよう」 「もちろん俺たちもな」 「……私も、協力する」 「僕もじゃあ、協力するよ」
私の不安をはねのけるようにセシルが、バッツとジタンが、ティナが、オニオンが、私を真っ直ぐ見つめて言う。柔らかな笑みを浮かべ、しかし目には強い意志を宿して。
「俺はもちろん、協力するッス」 「俺も協力する」 「俺も。……色々言ってやりたい事も、あるしな」
ティーダとフリオニールの強い眼差しと、スコールの静かだがはっきりした声が私の中に残っていた僅かな恐怖を打ち消していく。
「……」 「クラウドは、どうするんスか?」
一人目を瞑り黙るクラウドにティーダが訊く。 皆の視線が向けられる中、その瞼がゆっくり上げられた。ティーダとはまた違う、不思議な魅力のある碧眼が露わになる。 冷たい、静寂を保った目は誰でもなく私に向けられた。射殺されんばかりの視線がぶれることなく私の双眸に突き刺さる。 刹那、その言いようのない威圧感に身体が震えた。まさに、大人の圧力。
「本当に、いいんだな?」
低い彼の声が、鼓膜を震わす。 問いかけに、答えられるか。このプレッシャーをはねのけて私の意志をしっかりと伝えられるのか。 そんな自問を隅に追いやるように、クラウドは続ける。
「立ち向かえば、今以上にあんたは傷付く。それでも、立ち向かうのか?」 「……はい」
やっと返事が出る。だが、これだけでは駄目なんだ。 逃げてばかりじゃいられない。逃げても逃げても追ってくると言うのなら、立ち向かうしかない。 その勇気を、自信を、私はもらったから。 知らないうちに拳を握りしめていたらしく、爪が今にも皮を裂きそうなくらいに食い込んでいた。集中しているのか、視界にはクラウドただ一人しかいない。
「それでも、立ち向かいます」
文字数にして11文字。それがようやっと口から出てくれた。 だがその後は再び口は閉じてしまい、目線で有り余る決意を伝えた。応戦という意味合いも、少しだけある。 と、クラウドが突如として目を伏せた。かと思えば、彼の無表情が崩れ、僅かではあるが口角が上がる。 笑っ、た?
「そうか」
クラウドは本当に少しだけ、微笑んでいた。向けられる目からも、温かみが感じられる。 先ほどまでのプレッシャーが、嘘のようだ。
「……その気持ちがあれば大丈夫だ。あんたなら、打ち勝てる」 「クラウドさん……」 「その過程で俺に出来ることがあるなら、協力する」
先ほどとは打って変わって温かい光を宿した碧眼を見つめられる中、私は頭を下げた。
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