12 その双眸はあまりに美しく、あまりに無垢で [ 18/27 ]
「あ、オレ、ティーダッス。入って、いいッスか?」
ドアをノックしたのはティーダだった。その事実に、何故か安心する自分がいる。
今の自分が向き合って話せるのは彼しかいない。理由はないけれど、そう思えた。
どうぞと返事をし、急いで部屋の電気をつけた。カーテンを閉め、深呼吸をする。大丈夫、気持ちは落ち着いている。
振り返ると彼は部屋の真ん中に配置された白い小さなテーブルの前に立っていた。
「えっと、どうしたの?」
「……アンリ、辛そうだったからさ。様子見ッス」
「あ、ありがとう。でも私は大丈夫だよ?」
嘘をついた。
大丈夫。つくことに慣れすぎた、私の決まり文句。言うときの表情も声色も作り慣れてしまった、口癖のような言葉。
「……アンリ」
だから、バレない筈だった。
「嘘、だろ?」
ティーダの、海を映したような碧眼が私を見つめた。ぶれずに、私の目をしっかりと捉え射抜く視線。吸い込まれそうになる、瞳。
目が離せない。
つき慣れた嘘を、いとも簡単に見抜かれた。この目に、見抜かれたんだ。
「……ごめん」
「いいッスよ。責める気とかないし。でも何で嘘なんかついたんスか?」
「迷惑、かけたくないの」
ディアが私に執着する。それは兄妹の間での問題だ。
でも、ここに来てからは変わってしまった。兄妹だけの問題は、ティーダ達まで巻き込んでいく。その証拠がスコールのあの怪我。
ただのクラスメートだったのに家族となり、それが原因でみんなに迷惑をかけていく。
「私のせいでスコールだって怪我したし、みんなを困らせた。私のせいなのに、私が大丈夫じゃないなんて言える訳ないよ……」
大丈夫じゃないと言えば、彼らはまた余計な事で頭を悩まし、暗い顔をしてしまう。
もう、嫌なんだ。
誰かが傷つき、誰かが悩む姿を見るのは。自分がその原因となってしまうのは。
「アンリのせいじゃないッスよ」
知らないうちに俯いていた顔を上げると、ティーダが笑っているのが見えた。無垢な、笑顔だった。
「アンリは何にも悪くないッス。オレが保証する!」
「でも……」
「それにオレたち、たくさんの問題を解決してきた。みんなにも、アンリみたいに辛い時期……あったからさ」
いつになく静かな声色で、ティーダは言った。
様々な事情でここに来た。アンリもティーダも、同じだった。
彼にもここに来る事情があった。もう解決したのか、していないのかまではわからない。でも、私が悩んでいるようにティーダも悩んだことがあるのだろう。
「……ティーダ」
自分でもびっくりするくらい情けない弱々しい声が出た。が、恥ずかしがるのは後にしよう。
「何スか?」
「……ありがとう」
彼には救われてばかりだ。
最大級の感謝を込めて、私は笑みと共にもう一度ありがとうを伝えた。
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