太陽がくれたモノ | ナノ


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 片付けが終わった時にはもう日が傾き始めていた。窓から差し込む夕陽が部屋を茜色に染める。
 自分でもびっくりするくらい細かいところまで気を使って片付けをしてしまった。そのせいか疲労感は半端じゃない。が、出来は最高だ。
 ティーダも床に足を投げ出して座り、天井を仰ぎながら「疲れたぁ〜…」などと口にしている。


「ごめんね…、色々手伝わせちゃって…」
「全然平気だっつーの。こんなの、部活の基礎トレに比べたらなんてことないッス」
「基礎トレーニング、凄いキツいんだね」
「まあ、慣れれば平気なんだけどな。最初は死ぬかと思った」


 入部当初を思い出しているのか、ティーダは天井を仰いだまま笑う。それに釣られてついつい笑ってしまった。


「…やっぱりちょっと疲れた」
「さっきボソッと言ってたもんね」
「気持ちはピンピンしてんだけどなぁ」
「体は正直なんだよ」


 うーん…と首を傾げるティーダを見て、不意にあることを思い出した。


「そういえば、リビングにあったトロフィーって、まさかティーダのやつ?」


 バッツとアイスを食べていたときに話題になったトロフィー。ブリッツをしている弟のやつだと言っていたが、ティーダもここの住人であるならバッツの弟的立場になる。加えてティーダは高校のブリッツボール部エースだ。あり得ない話ではない。


「ああ、そうッスよ」
「やっぱり!」
「? やっぱりってなんスか?」


 不思議そうな顔で見つめてくるから、事の成り行きを説明する。ついでにバッツがティーダを「自慢だな」と言っていた事をちらっと言ってみた。


「な、なんか…照れるッス」
「褒められたら誰でも嬉しいもんだしね」
「…まぁ、うん」


 顔が真っ赤な時点でもう照れているのは丸分かりなのに、素直じゃない。一旦肯定したにも関わらず、まだ照れ隠ししている。
 学校じゃ見られない一面。クラスの中で見るティーダは褒められたら胸を張っちゃうタイプだった。「まあな!」とか言って。
 家族に言われたらやっぱり友達に言われる以上に嬉しいのかもしれない。
 私は違ったけれど。確かにお母さんに言われたら嬉しかったけど、お兄ちゃんに言われたときは何だか複雑だった。
 お兄ちゃんは何を見せても褒めるから。だから信憑性に欠けていたんだろう。
 信用出来なかった。だから、嬉しくもなかった。そういうことなんだろう。


「さて、片付けも終わったから夕食のお手伝いでもしてこようかな」
「アンリ、偉いなぁ。ってか、料理出来るんスか?!」
「失礼な。お母さんの代わりに何年もご飯作ってました」


 病気がちのお母さんに少しでも負担をかけないよう、家事はなるべくやるようにしていた。ディアは料理があまり得意ではないし、学校やバイトがある。お父さんはずっと前に死んでしまったから、必然的に一番余裕のある私がやるようになっていた。
 だから料理は昔から得意。


「アンリのご飯、食べてみたいッス!!」
「そう言ってくれると作り甲斐があるよ」


 満面の笑みを浮かべるティーダに、心なしか胸がぽっと熱くなった。






 雲一つ無い空が茜色に染まる頃。
 きっとこの時から始まったのかもしれない。




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