03 お馴染みのエース [ 7/27 ]
まさか、とは思った。あの無駄なくらい明るいあいつが、ここの住人な訳がないと。ここに来る理由というものが、全く思いつかなかった。 でも見てしまったら、その事実を受け止めるしかない。 目の前に立っている金髪の少年は動揺しているのか瞬きを繰り返し、何か言いたげに口をパクパク動かしている。
「…ティーダも、ここに住んでたんだね!い、意外だなぁ〜…」 「――ね」 「え?今、なんて?」 「今日から一つ屋根の下ッスね!!」
さっきの動揺っぷりはどこへやら、太陽の名に相応しいキラキラした笑みを浮かべながらティーダは言う。一つ屋根の下って…確かにそうだけど。 そんな笑顔で言われても、仮にも同じクラスなわけだし…。
「まさか本当にアンリが来るとは思ってなかったッス!」 「なんだよ、ティーダ。知り合いだったのか」 「アンリは同じクラスの子ッスよ。前に話したろ」 「あぁ〜…?そうだっけ?」
バッツは見事なまでに首を傾げた。それにティーダはため息をついて、こちらに向き直る。
「荷物あるって事は、まだ部屋には行ってないんだよな?」 「うん…」 「じゃあ、案内するッス!」
言うなりティーダは私の荷物を持ってさっさと行ってしまう。 なんだかここに来る前もこうやって置いてきぼりを食らいそうになった気がする。この家の人はこういう気質なのだろうか。 思うも、慌ててついて行く。先ほど通った道を再度歩くと思いきや、中庭を分断するようにある廊下を進んでいく。床以外は全面ガラス張りで、中庭に咲く花達がよく見える。 廊下を抜けるとティーダはすぐ近くの階段を登っていった。解説の一つくらい入れてほしいところだが、仕方ない。あとでしっかりしてもらおう。 思いながら二階に上がるといくつかドアが並んでいた。
「ここはオレと、あとスコールとクラウドの部屋があるんだ。アンリもここの階な」 「うん。…あれ?」
今、スコールって言った?
「スコールもここにいるの?」 「そうッスよ。んで、アンリの部屋は…」 「いやいや、ちょっとストップ」
スコールもまた、クラスメートのひとりだった。席もティーダ程ではないが近い。ちなみにティーダは私の隣だ。 無愛想で有名なスコールも、ここの住人なのだろうか。いや、多分そうなんだろうけど。 あぁ、頭が混乱してきた。
「何がどうなってるんだろ…」 「…びっくりするよな。昨日まで単なるクラスメートだったわけだし…」 「うん…。あ、ごめんね、困らせる気はなかったの」 「オレは全然!気にしなくても大丈夫ッスよ」
ティーダがまた笑み、話はそこで切られた。まずは部屋まで行って、それから色々教えてくれるらしい。 廊下の端にある部屋が私の部屋だった。ドアノブを捻り、中に入るとベッドや机などのある程度の家具と、段ボールが2つ部屋の真ん中に置いてあった。 白く塗られた壁に木造の机と椅子が窓の近くに置いてある。ベッドもまるでホテルのそれのような綺麗さだ。
「わぁ…」 「気に入った?」 「うん!すごく気に入った!」
奥に入るなり窓からの景色に感動する。高台の先端に建つ家だからか、リビングで見た景色と同じように街並みがよく見えた。 早速荷物を整理しようと、先に送った段ボールを開ける。段ボールに思いっきり詰め込んできたせいか、中はぎゅうぎゅうだった。 お兄ちゃんに嘘がバレないようになるべく見た目だけは量を減らそうとした結果がこれだ。服やらコートやらが真空パックされたみたいにぺったんこになっている。
「うわ〜…。ぺったんこだな…」 「本当…。スゴいなぁ、自分…」
荷物を必死で詰め込んでいた数日前の自分を称えながら、ひとつひとつ荷物を出していく。 片付けはティーダも手伝ってくれたおかげで、思ったより早く進んでいった。
「あ、そういえば」
服を畳んでタンスに入れながら、ふと思い出す。
「どうかしたッスか?」 「この階に部屋があるその…クラウドさんって、どんな人なの?」
先程はスコールとまで一緒に暮らすのかという衝撃が強すぎて聞きそびれたが、唯一知らない名前だ。一応同じ階なのだから聞いておいた方がいいだろう。 ちょうど教科書を棚に入れていたティーダは、私がそう聞くなりうーんと少し唸る。
「…イケメンッスね」
神妙な面もちで、そう言われた。
「イケメン?」 「学生時代はモテモテだったし、今も会社では女の子の注目の的みたいッス」 「そんなに?!」
一体どんなイケメンなんだ、クラウドさん…。 女子の心理からなのか、どれだけイケメンなのか確かめたくなってきた。会社ってことは社会人だろうから、夜遅いんだろうな。
「今日は早く帰ってくるって言ってたから、すぐ会えるッスよ」 「今日は?」 「クラウドもアンリが今日来ること知ってるから。早く帰って、顔が見たいんだってさ」
ティーダは止まっていた手を再び動かす。それ以上言わないという事は、あとは見てからのお楽しみということなのだろう。 私も再びタンスに服を入れる作業に集中した。
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