11 月にすら、見放される [ 17/27 ]
>>>アンリ視点。
「……気がついたら、家にいた。公園の横を通りすがったバッツとジタンが、助けてくれたらしい」 「そう、だったんだ……」
聞かされた事実ははたして、自分の兄の暴挙であった。 スコールのその傷を見る度に、ズキズキと痛む胸。無意識に手を当てると、心臓がこれでもかと言うほどに脈を打って煩かった。 恐怖が。 兄がここまで手を伸ばしてきたという恐怖がこみ上げて、指先が震えた。 スコールが気を失ってから家に戻るまでの話を聞きながらも、やはり意識はあの約束を交わした日の記憶の中にあった。
“男とは決して関わるな”
改めて言われたとき、反抗しようかとも思った。クラスの男子などを見る限り、危ない人はいない。いたとしても、高校2年生にもなればある程度見極めることも出来る。 でも、やっぱり言えなかった。おかしくなってしまった兄に今更何を言おうが聞いてくれない。まず、言った代償が大きい。そう思った。 それだけじゃない。 怖かった。 二度と外に出られなくなることを心のどこかで予期していたが故に。
「アンリ?」 「……ごめん、ちょっと休んでもいいかな…?」 「ん、あ、あぁ……。大丈夫ッスか?」 「大丈夫。きっと、たくさん歩いて疲れちゃっただけだから」
話はだいたい聞いた。これからについての話は、また後にしたかった。 今は、先について考えたくない。前に何があるか、怖くて確かめられない。 心配そうに見つめてくるみんなに笑顔でもう一度大丈夫とだけ告げ、部屋を出る。なるべく自然に、なるべく心配を増幅させないように、そぅっと扉を閉めてため息を一つ。 震える手を握り拳を作ることで何とか宥めて、足早に部屋への道を進んでいく。いつもより心なしか荒々しい足音が、耳障りで仕方なかった。 逃げて、逃げて。 逃げ続ければ逃れられるものだと信じていた。だから、ここに来た。自分の人生をここから再スタートさせるために。 だが、実際はそんな甘いものではなかった。 こうして、被害者が出てしまった。 思い出される、包帯の白。うっすらと滲んだ、赤。無表情の下に苦痛の色を隠した、彼の顔。 申し訳ない。謝って許される話ではないのかもしれないが、それでも謝る以外に自分のすべき事が思いつかない。 駆け込むようにして入った自室は真っ暗で、窓から月明かりが差し込んでいた。それが冷たいような、そんな色をしていてますます気が滅入る。 結局は逃げられない。 そう告げられているかのような、そんな気がした。
あの時、逃げようなんて思わなければ。 スコールを、大切な友達を傷つけずに済んだのに。 ティーダや、他のみんなを巻き込まずに済んだのに。
考えれば考えるほど悪いのは自分なんだと自覚させられる。 ベッドに腰を下ろして今日何度目かも分からないため息をついたとき、部屋のドアが小さくノックされた。
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