04 消えない束縛――連絡 [ 9/27 ]
夕食を作り終えた頃にはほとんどの人が帰ってきていた。 改めて見ると、見知った顔が多い。ティーダもそうだが、スコールやジタン、フリオニールやティナは同じ高校に通っている。むしろ知らない顔の方が少ない。 不安は少ない。見知った顔がいるのは心強いし、慣れるのも楽だ。 しかし、些か男子比率が高い気がしてならない。女子は私と、あとは――。
「アンリ」 「あ、ティナ先輩」
この家で数少ない女子で先輩のティナがテーブルを拭き終えて戻ってきた。
「先輩なんて、家では普通に呼び捨てでもいいよ」 「え、あ……なら、ティナちゃんで」
さすがに呼び捨てはと思って提案してみたが、反論もないからどうやら受け入れてくれたようだ。 出来上がった夕食達を次々とテーブルに運ぶ。その気配を感じたのか、住人達が続々とダイニングルームに集まってきた。
「うわ、美味そうだな〜」 「おい見ろバッツ! これなんかかなり美味そうだ!」 「…つまみ食いするなよ」
先に運んだおかずたちを眺めるバッツとジタンをスコールが諫めている。ジタンはまだしも、バッツはスコールよりも年上のはずなのだが。
「あそこ、仲いいなぁ」 「昔からそうなの。あそこの3人、色々言って仲良いんだ」 「へぇ〜…。何だか、羨ましい」
兄と仲良しだった日々なんて、忘れてしまった。きっとあったのだろうが、もう記憶の底に沈んで二度と思い出すことは叶わない。 最後にメインの煮込みハンバーグを運び、夕食の支度は終了した。皆、各々の席に座っていく。
「あとはクラウドだけだね」 「結局最後かよ…。早く帰ってきてほしいッス……腹減りすぎて死ぬ…」 「さっき連絡来たからあと少しだよ」
ぶつぶつ言っているティーダを宥めるセシル。見る限り怖い人には見えない。 と、待ちわびたインターホンの音が響いた。 セシルがすぐにモニターを確認すると、私たちに向かって小さく頷いた。それに先ほどまで不機嫌顔だったティーダの表情が明るくなる。 出迎えに行ったセシルが戻ってくるのを心待ちにしている皆とは別に、私にはもうひとつ心待ちにしているものがあった。 クラウドという人はティーダ曰わくイケメンらしい。写真でも見せてもらおうと思ったが、バタバタしていてすっかり忘れていた。 女子の心理として、一目見てみたい。会社でも注目されてしまうくらいの、彼を。 セシルが出迎えから戻ってきてから数分後、玄関に続くドアが開いた。
「おっ、やっと来たな」 「クラウド遅いッスよ〜」 「すまない。残業だったんだ」
相槌を打つその声すらも、魅惑的だった。 ツン、とした金髪に長い睫毛。イケメンという言葉の枠にすらも当てはまらないくらいの、整った顔立ち。そこらのアイドルなんかと比べられない。 こんなかっこいい人、いるんだな……。 呆然と見ていると、ふと目が合う。 綺麗な碧眼だな……。
「あんたが、アンリか?」 「え? あ、はい! 今日からお世話になります、アンリです」 「そんな畏まるな。今日からあんたも家族なんだ」
クラウドに何気なく言われた言葉が頭で反復される。 家族。今日からこの人が私の新しい兄となり、周りのみんなもただの知り合いから家族になる。血ではない、抱える闇で繋がった新たな家族に。
「どうかしたのか?」 「あ、いえ、何でもないです」 「そうか。ならもう、席につこう。ティーダが餓死する」
クスッと微笑む程度の笑みをこぼしてクラウドが見つめた先には、必死で自らの食欲と戦って瀕死のティーダがいた。隣に座るスコールがうっすら驚愕の表情を浮かべている。 これ以上放置すれば餓死しかねないので、慌てて席についた。
「じゃあ、新たな家族が加わったことを祝しながら頂こう。いただきます」
セシルの言葉を合図に皆が夕食に手を付け始める。やはりというか、ティーダは一番起動が速かった。
「んなっ! 美味いなこれ!」 「程よい味付けだ。うん、美味い」 「そう言ってもらえて嬉しいです」
料理が思った以上に好評でホッとする。味付けなどには若干の不安も残っていたから、尚更だ。
「アンリは家でも料理を?」 「はい。お母さんが入退院を繰り返していたので、私が代わりに」 「偉いね。君は」
セシルが笑みを浮かべる。温かみと優しさが滲むそれに、うまく笑い返すことが出来なかった。 そんな私をよそに、話題はこの家のことに移っていた。新しい家族が来たことがきっかけになっているのか、皆思い出話に花を咲かせる。 それに静かに耳を傾ける。セシルもすぐに話題に乗っていったし、長く引きずる理由もない。
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