valentine project 2014 | ナノ







 バレンタインデーにチョコを渡してくれるな。それが私と彼の間での約束だった。だから私は彼女でありながら彼にチョコを作ったことはなく、毎年バレンタインデーになると友チョコ義理チョコのみが大量に生産されるという、若干物足りない感じを味わうのであった。
 仕方ないのだ。彼は……神宮寺レンという人間はバレンタインデーに生まれながらチョコ嫌いなのだから。

「よし、完成」
「今年は随分と時間がかかったね」

 横でチョコ完成の過程を見ていたレンが呟く。

「まぁ、ガナッシュだしね」
「去年は確か、トリュフだったよね?」
「そう。毎年トリュフ。いい加減申し訳なくなってきたから」
「そうかい? 琉華のトリュフはパティシエ顔負けだってシノミーも言ってたけど」
「そうなの?」

 そんな会話をしている間も手は休めない。丁寧にラッピングしながら、鼻歌でも歌ってしまいそうな気持ちを懸命に堪える。

「……」

 ふと、レンの声が途切れた。

「レン? どうしたの?」
「琉華は、みんなにチョコを作るのは…やっぱり楽しいのかい?」

 初めてだった。まるで今にも泣き出しそうな子供のような顔をしながら彼が恐る恐る聞いてきたのは。
 あまりに突然の事に一瞬固まってしまったが、そこは何とか持ち直す。

「年に一度だから、楽しいけど……何で?」
「オレはチョコレートは嫌いで、バレンタインデーでも要らないって言っているだろ? だからオレには作れない。でもみんなになら作れる。…せっかくのバレンタインデーを楽しんでいるのはオレも嬉しいけど、オレ自身が琉華を楽しませることが出来ないのが残念でね」

 好き嫌いは誰にでもある。そう思うことで押し込めた気持ちがあった。
 レンにも、まるで漫画のようにチョコを渡してみたかった。
毎年バレンタインデーにあげているクッキーやシュークリームではなく、チョコを渡してみたかった。
 バレンタインデーらしいバレンタインデーを過ごしてみたかった。
 彼に作れない分、みんなに作るチョコに気合いを入れてきたがやはり。

「ねえ、琉華」

 考えが深みにはまろうとした時、ふいにレンの声が私を呼んだ。

「チョコレートは苦手だけど……それくらい甘い夜なら、構わないよ?」

 意地悪だと思った。私が断れないのを分かって言っているに違いない。
 レンの悪戯な笑みが私の答えを急かす。

「今年はお菓子、無しだから」

 私が言うと、構わないよと彼は笑った。



(その夜はトップシークレット)





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