零式 | ナノ





 茜色に染まり始めた教室。いつも騒がしい0組の教室にいるのは私一人だけだった。
 人生初の報告書再提出にショックを受けて、教室でぽつんと1人書き直す。最近上の空だったなと改めて思いながら、黙々と文字を並べていった。

 いつもならしない間違い。何故今回したのだろう。
 0組に配属されてしばらく経つ。慣れが気の緩みを誘発したのだろうか。
 ――違う。
 きっと、あの人のせいだ。

 0組の指揮隊長としてやってきた、彼。強くて、格好良くて、自分にも他人にも厳しいが優しさもあると思う。そんな、彼。
 一生徒でありながら、私は隊長に一目惚れしていた。皆は嫌がったりしていたが、私にそんな気持ちは微塵もなかった。



 好きだなぁ……。



 報告書の横に広げていたノートに、無意識のうちに言葉が並ぶ。いつも思っていたことが、綴られていく。
 頭の中に浮かぶ隊長の姿。乙女の想像は止まることを知らない。



“クラサメ隊長。
私は、いつもあなたばかり目で追うようになってしまいました。
……変な視線、浴びせてしまいすみません。
でも、見ないことは出来ないです。
私、隊長が好きだから、大好きだから。
生真面目で、皆に厳しいけれど、私の憧れです。
だから………”



 その手は、いつしか止まっていた。



***



 意識が現実に帰ってくる。
 知らず知らずのうちに下ろされた瞼をゆっくり上げてみれば、書きかけの報告書とノートが見える。



 あ、寝てたんだ……。



 外は既に暗くなり始めていた。そのためか教室の電気がついている。つけた覚えはないのだが。
 姿勢を正し、再び報告書を書こうとして、しかしその手は止まった。理由は、あのノート。

 自分が書いた羞恥心を駆り立てる文の横に、明らかに自分ではない誰かが書いた文があった。



“リアへ。
ありがとう。
私も、同じ気持ちだった。
   好きだ”



「えっ……ま、まさか……!?」



 教室に電気がついていたのも。
 このメッセージがあるのも。
 全て、全て。



「隊長……な、の…?」



 明日、どうしよう。
 見たらきっと嬉しくて泣いてしまう。
 とりあえず、落ち着かないと。
 色々考えながらも、口元の緩みを押さえることはどうにも出来なかった。




沿

title→etoile様