零式 | ナノ





 目の前に置かれたお弁当に、ただただ驚きを隠せなかった。いや、むしろお弁当の向こうにいる人に驚いた。
 隊長が、いる。我らが0組の指揮隊長、クラサメだ。
 マスクのせいで詳しい表情が見られない。おかげさまで、どんな気持ちでこのお弁当を差し出しているのかが分かりかねた。

「あ、あの、これ……」

「候補生たるもの、体調管理には気を使えと言ったはずだ」

 明らかに不機嫌なその声にびくっとしてしまう。
 目を合わせられず俯けば見えるのは全く解かれていない過去問たち。その横には大量の文献。

「……試験勉強も大事だが、いつ何が起こるとも分からない。何も起こらなかったとしても、作戦の時に倒れたりでもしたら朱雀の戦力にも関わる。お前は0組の一員なんだからな」

「はい……」

「作戦に身が入らなければ隙が生まれ、死ぬ場合もある。それを理解しろ」

 言うなりクラサメは弁当を私に無理やり押しつけてから、トンベリを従えてさっさと教室を去っていった。
 シンプルな薄水色のハンカチにくるまれた弁当をしばらく覗いてから、ゆっくりハンカチを解く。
 お弁当を開けて目に入ったのは、少し歪なハンバーグ。


 まさか、手づくり……?


 想像がつかなかった。今までこんなことをされた人を聞いた試しがないし、ましてやあのクラサメだ。そんな手づくりの弁当を差し入れるなんて努にも思わないだろう。
 0組の中でもそんな話は一切無いし……。

「まさか、ね」

 そんなはずはないんだ。
 まさか、私だけがそうだなんて。自意識過剰なんだ、きっと。

 あまり話したこともないのに、どうしてだか知られている好みの味。

 偶然なんだと割り切る私の心には、今まで感じたことのない甘い甘い感情が溢れ出していた。











(貴方に恋をしてしまったようです)