教室に入るとケイトがいきなり私に小さな箱を渡してきた。
「これ、あげるから!」 「え、いや、何? これ……」 「恋人が今日使うっていうお菓子!」
言うだけ言って、彼女は先ほどまでいた友達の輪に入っていった。 呆然と立っていたが、やはり“恋人が今日使うっていうお菓子”が気になって仕方なく。 気が動転していて初めはよく分からなかったが、このパッケージ……よく考えたら見覚えがあった。赤の箱、長方形で薄い。表には恐らく……。
「……やっぱり」
案の定。表には細長いクッキーにチョコをつけた例のお菓子が大々的にプリントされていた。 今日は11月11日。 恋人同士でこいつ……ポッキーをくわえて例のゲームをする、あの日だった。
ケイトに言われないと忘れていた“ポッキーの日”ではあったが、私からまさかあのゲームをしようなんて言えるわけもなく。 気付くと放課後になっていた。
「どうしよう、これ」
赤い箱片手に立ち尽くす。いっそのことひとりで食べてしまおうかとも思ったが、それはそれで何だか寂しい気がした。 やっぱり言うしかないのか。
「どうかしたのか?」 「ふわぁっ!?」
背後から突然かけられた声にびっくりしながら振り向くと、つい最近付き合い始めたばかりの彼が目を丸くしながら立っていた。
「あれ、エース……用事は終わったの?」 「ああ。待たせたくなかったから、すぐに片付けてきた」 「あ、ありがとう」 「気にするな。それより、その箱……」
エースの目はポッキーの箱に向けられていた。 秋風が吹き抜け、落ち葉が舞う。 冷たい風が掠めていった筈なのに頬は火がついたように熱く、心臓が暴れて仕方ない。
「……リア」 「なっ、何……?」 「それ、貸して」
差し出された手にびっくりしながらもポッキーの箱を渡す。やるかやらないかの選択は彼に委ねられた。 付き合い始めたばかりだからかまだちゃんと分かっているわけではないが、普段の彼を見るにポッキーゲームのような類のことはあまりしなさそうだ。まず、今日がポッキーの日であることを知っているのかいないのか。
「……こんなに短かったか?」
ふと彼の声が聞こえて思考を現実に引き戻せば、目の前であの細長いチョコ菓子を取り出しているエースが目に入った。 本気でやるつもりだ。 あまりしないなんて予測は何処かへ去っていき、ただただ胸が轟く。
「リア、もっと近くに来てくれ」 「えっ……」
抵抗しようかと考えたものの、勿論逆らえるわけもなく距離を縮めた。 私とエースはあまり身長差がない。若干エースの方が高いものの、差はそれほど開いてはいない。 彼の顔が目の前にあるのはそれ故の必然で。
「くわえて」 「待って。こ、ここでやるの?」 「ああ」
有無を言わせず彼は細長いチョコ菓子をくわえた。仕方なしに、もう片方の端っこを控えめにくわえる。 ゆっくり、折れないように慎重に食べる。目は開けない。開けたらきっと、途中棄権間違いなしだ。 まだか。まだか。ちまちまと食べているからか。 なかなか来ない終点にドキドキが最高潮に達した、刹那の後。
「っ!?」
触れる、柔らかな感触。一瞬が何百年にも感じられる、そんな時が訪れる。 知らないうちに繋いでいた手が、今更ながら温もりを伝えてくる。それが今まで感じていた頬の熱さをより倍化させた。 そぅっと離され、同時に目をゆっくりと開ける。 頬を微かに赤らめながら優しげな笑みを浮かべる、彼がいた。
first kissはチョコテイスト (もう一度……やるか?) (ここでは駄目!)
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