いつもより早く来てしまったせいか、教室には人っ子一人おらず閑散としていた。歩く度に朝独特のひんやりとした空気が頬を撫でる。 自分の席がある窓側2列目まで行き、椅子に腰を下ろしてから愛用の腕時計を見る。まだみんなが来るまで余裕がある。
少し、寝ようかな……。
思って机に伏せると、ゆっくり瞼を下ろした。
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顔を上げると、教室内には既にみんないてそれぞれ話をしたりしていた。いないのは隊長くらいか。きっとまだ来ていないだけだろう。
「やっと起きたのか」
「あ、エース。おはよう」
「…この時間に言うことか?」
呆れ顔のエースに言われ、腕時計を見れば既にお昼時。授業は既に終わって、これからお昼ご飯という時間帯だった。 午前の授業全て居眠りした、という事実に絶句する。クラサメ隊長のあの冷たい視線を想像し、身震いした。
「隊長が何回か起こしてはいたけど、全然起きなくて呆れてた」
「え、それ本当?」
「本当だ」
マジですか。 うなだれていると、エースが耳元で私の名前を呼ぶ。
「僕もついて行く。だから、謝りに行こう」
「え?」
「午後の授業から説教は嫌だろ?」
顔を上げればエースが小さく頷いて、立ち上がった。 それにつられるように立ち上がって2人で教室を出る。扉が閉まり、中の喧噪が聞こえなくなった。
―――刹那。
「きゃっ!!」
急に体が傾き、廊下の壁に背中を打ちつける。反射的に瞑った目をゆっくり開くと、超至近距離に彼の姿を捉えた。 彼の両腕は私の横に伸び、その目はいつもとは打って変わった鋭さがあった。
「エース…? な、何、してる…の?」
「リアを、捕まえてる」
「なっ…!」
甘い声で囁かれ、言葉を失う。彼はこんな人じゃなかった気がするのは私だけだろうか。 妙に積極的なエースにたじたじしていると、彼は不敵に笑む。 それに、私の中の警報機が反応しサイレンを鳴らす。危険、そう言いながら。
「もう、誰にも渡さない」
言って彼は一気に顔を近づけ、そして唇を重ねた。 何だ何だと考える余裕すらも無いままに、私の頭の中は真っ白になっていった……。
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「うわぁぁぁっ!?」
思い切り顔を上げれば、未だ閑散としている教室の風景が目の前に広がっていた。人気も無いし、あの朝独特の空気も残っている。
あぁ、夢か……。
残念がっている自分に気づき、首を横に振る。頬に触れれば火照っているのがわかる。 確かに片想いの相手にされるなら嬉しくもなるのだが、如何せん恥ずかしい。 気を紛らわす為に教室を出ると、ちょうどやって来たエースと会った。
夢、思い出しちゃった……。
「リア、大丈夫か?」
「だ、大丈夫って、どうして?」
「顔、赤いから」
そう言ってエースが歩み寄ってきて、私の額に手を当てた。ひんやりとした、冷たい手。 触れられていることでますます体温が上がっているのが、すぐわかった。なんと分かりやすい体のつくりをしているのかと少し呆れてしまう。
「熱いな。熱があるかもしれない」
「大丈夫だよ! 体調は全然問題ないし!」
「そうか…?」
腑に落ちないような顔をしながらエースはその手を額から離し、次は肩を掴んで思いっきり扉に追いやった。
この展開は……まさか。
「じゃあ、いいか」
「ななな、何が?!」
「僕はリアが好きだから、どうしてもいてもたってもいられなくて」
その目も、その声も、全部知っている。 夢の、再来。
「好きだ、本当に好きなんだ、リア……」
「私、も……だよ…」
現実では、上手く言えるものなんだと思った。夢だったらあんなにも気が動転していたのに。 甘い声が響いて止まぬまま、静かにそうっと口づけを交わした。
夢のままでは終わらない (やっぱり現実の彼の方がいい)
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