零式 | ナノ





 それは突然起こった。






「嘘…だろ…?」

「え、エー…ス……?」

 リアの腹部に咲いた、薔薇の花。白いYシャツによく映える紅が、惨劇を物語る。

 通り魔。ニュースの中だけの話だと思っていた。事件を聞くときもどこか他人事で。

 でもまさか、こうなるなんて。

「リア…リア…! 今すぐ助けを…!!」

 抱いていたリアから離れようとして、しかし、リアが制服をぎゅっと掴んだ。そして、優しく笑んで小さく首を振り、ゆっくりと口を動かす。痛みのせいか声は出ていなかったが、僕には分かる。

“ そ ば に い て ”

「…分かった…。ずっと、そばにいる…」

 答えた時はまだ携帯で救急車を呼ぼうと考えていた。
 でも、リアが涙を見せた瞬間、そんなことは全部吹っ飛んだ。







 ――――もうすぐ、リアが死ぬ。







 予感がした。今から呼んでも間に合わない。冷静に思えてしまったんだ。血が止まらずYシャツが紅に侵食されていく、その光景を見た時から。

 なら、最期の時まで一緒にいよう。泣かず、リアを心配させないような笑顔で看取ってあげよう。そう決めた。

 リアがまた、口を動かした。見逃さないようにじっと見る。

「…!!!!」

 彼女はまたニコリと笑い―――――目を閉じた。

 その目は未来永劫開くことはなく。
 その口は二度と言葉を紡ぐことはない。

「…やっぱり無理だ……リア……!!」

 泣かないと決めた。笑顔で看取ると、決めた。
 でも、彼女が遺した最期の言葉がそれを許さなかった。

「ぁあぁあぁぁあぁああっっっ!!!!!!!!」

 泣き叫ぶことしか、僕には出来なかった。














 彼女の最期、紡いだ言葉。それは……






      
(貴方の彼女で、良かった…)