今日は、いい日だった。
同じクラスのスコールと、話が出来たのだ。無口な彼と話すなんて簡単な話ではないから、まさに奇跡同然。
彼に教えてもらった数学の解き方を頭の中で復習しながら、箒で教室の床を掃いていく。嬉しくて、今にも鼻歌を歌ってしまいそうになるのを必死で堪える。
堪えながら同じく掃除当番の女子とたわいもない話に花を咲かせていると、帰り支度をしてつい数分前に出て行った女子が駆け込んできた。
「ちょ、ヤバい!」
「どうしたの?」
駆け込んできた女子に問いかける。何かあったのか。
その子は少し息を整えてから、興奮した様子で言った。
「スコールがさ、隣のクラスのリノアと手繋いで帰ってて! あいつ、本当に彼女いたんだね」
刹那、さっきまでの晴れやかな気持ちは一瞬で散っていった。復習していた数学の解き方も、遠く彼方へと旅立つ。
そういえば一度耳にした。スコールには彼女がいる、と。だが、クラスのみんなはスコールがどんな人かを承知しているが故にその噂に耳を貸さなかった。
私も気にしなかった訳ではないけど、あまり深くは考えないようにしていた。所詮は噂なんだと、嘗めてかかっていたのかもしれない。
だが、それが噂から事実に変わろうとしている。
興奮覚めやらぬ状態で話すその子の声は最早遙か遠くにあった。
そんな……嘘だ。
「ちょっと、アンリ?!」
気づいた時には、走っていた。人が多く狭い廊下を必死に抜けて、階段を駆け下りる。
嘘だ。嘘、嘘、嘘……!!
終わらせたくない。この恋だけは、奪わないで。
好きなんだ、大好きなんだ、彼が……スコールが。
先輩後輩が入り混じる玄関に漂う冬の空気すら、今の自分の敵ではなかった。
――帰り特有のざわめきの中に彼を見つけるまでは。
「……嘘だ」
世界が、色を失った。
ざわめきも冬の寒さも、どこか遠くのものに思えた。
私の瞳に映ったのは果たして、黒髪の女子……リノアと仲良く手を繋ぎながら穏やかな笑顔を浮かべるスコールその人であった。
「恋の死亡推定時刻」
(この瞬間に、臨終しました)
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ぱくりあいから同じタイトルで書いてみよう企画に。
「恋の死亡推定時刻」を書かせていただきました。
ナナセさんのと比べると暗い話。スコリノに主人公が気付いちゃう的な話。全く報われない。
というか、FF8の夢小説風になってしまったことに今気付きました。
Thanks!!
title:tiny様