エトワール | ナノ

「――that以下のここから主語、述語と続く。その後……」


 夕方の教室。大好きな先生の声を間近で聞きながら、必死に理解をしようと頭を回転させる。
 先生は大好きなのに英語は苦手。いつも補習授業を受けているせいか顔と名前をすっかり覚えられてしまった。出来ることならもっと別な事で記憶に残りたいが、私の脳味噌の出来の悪さがそれを許さない。


「だから……って、聞いているのか?」
「えっ!?」
「……また聞いてなかったのか」


 向かい側に座る英語教師、クラウド・ストライフ先生のため息混じりの言葉に私は苦笑いを浮かべるほかなかった。
 先生は学校でも人気の先生で、女子のみんなは先生の授業だけやたらと真面目に受ける。バレンタインとなるとたくさんのチョコをもらい、ホワイトデーにちゃんと全員にお返しをするような、そんな人だ。
 私だって、先生が好きな女子高生の1人だ。実際、補習授業を受ける度に上がってしまって全く頭に入らない。
 今も、そう。


「何か悩みでもあるのか?」
「えっ、ど、どうしてですか?」
「上の空だからな。授業はあんなに真面目なのに」


 授業は色々話が違うんです、とは言えない。


「ん……あんた、顔赤いな」
「なっ、あ、あれです、夕日が…っ!」
「ふっ、本当にそうか?」
「そうです!」


 机一個挟んだだけの距離で悪戯な笑みを浮かべる先生に、ただただ私は翻弄されるばかり。大人とはこんなにも子どもを翻弄するのかとびっくりする事すらままならない。
 これ以上は本当に心臓が大暴れしてしまう。思って、目を合わせまいと俯いてみるが、すぐに顎を掴まれ目を合わせられてしまった。


「今からする事は、誰にも言うな」
「えっ?」
「いいな? 俺となまえ、2人だけの秘密だ」


 いつもとは全く違う妖艶な雰囲気を漂わせ、先生は口角を上げ妖しく笑んだ。




きみの唇はマシュマロみたいに甘いんだね
(夕日しか知らない、刹那の出来事)



title→愛嬌様


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