気がつくと既に夕暮れ時だった。夏の夕暮れは遅い。きっと思っている以上に時間は遅いだろう。
「ごめんね、こんな時間まで付き合わせちゃって……」
「……別に、構わない」
締め出し同然に出てきた図書室から玄関に向かう。オレンジ色に染まった廊下に人はいなく、二人の足音と声だけが響いた。
テストも近づき、各々準備に取りかかり始めたこの時期。私もまた然りだった。苦手な教科を何としても撲滅しなくてはと図書室で勉強していたものの苦戦。
そこに彼は現れた。
別に呼んだわけでもない。まず仲がいいわけでもない。会話なんて事務的なものしかした試しがない。
そんな、何故ここに現れたか全く分からない彼――スコール・レオンハートは私と広げられたワークを見るなり、いきなり教師役を買って出た。
無口、無表情、無関心の三点セット揃った彼のまさかの申し出に戸惑いつつも承諾し……今に至る。
「にしても、スコールって本当に頭良いね。あんな問題、すぐ解いちゃうんだもん」
「……慣れてしまえば、あんたでも出来る」
思わずため息が零れる。秀才くんと凡人の差がここに出ているなと瞬時に思った。
二人で並びながら廊下を歩く。彼は基本話をしないから、こっちから切り出さなければ沈黙が必ずと言っていいほど流れる。
「あ、そ、そうだ!」
我慢してやろうかと思ったが、沈黙は思った以上に強敵だった。
いきなり大声を出してしまったからか、スコールがびっくりしたように目を丸くしていた。そんな彼に驚く私。
だって、無表情以外見たことないし。
「あのさ、何か欲しいものとか食べたいものとかない?」
「……どうしてそんな事を訊く?」
「今日勉強教えてくれたお礼がしたいの。何でも良いからさ。ダメ……かな?」
言うとスコールは顎に手を当て目を伏せた。
そんな彼を見つめる。
やっぱりかっこいいな、とか睫毛意外と長い、とか。無意識のうちにポンポン出てくる彼への感想じみたもの。
同時に感じる、小さな胸の痛み。何だろう、分からない。
「……」
「あ、無いなら無理しなくてもいいんだけど」
「…何でもいいんだよな?」
急な問いかけにうん、と頷けば彼は顔を上げてジッと私を見つめてきた。
どうしよう、すごい緊張する……。
明らかに上がった心拍数。体温。
それに気を取られていたせいで、彼の動きを見逃した。
揺れた視界。ふらつく足元。慌ててバランスをとろうと足を動かすもうまくいかない。
そして、静寂を破るように響いた衝突音。貼られていた紙がくしゃりと鳴る。
気づけば私は掲示板に背中を預け、目の前にいる彼から目を離せずにいた。
――ち、近い……。
体温は上昇の一途を辿る。目は相変わらず離せない。頭は状況に追いつけず、混乱状態。
「なら、あんたが欲しい」
「…えっ?」
「何でもいいなら、俺はあんたが欲しい」
吐息が感じられる距離というだけでもドキドキしているのに、これ以上どうしろと。
掲示板とスコールに挟まれ、完全に逃げ道は断たれている。でも、嫌ではない。
――そうか、私……。
「……いいよ」
出された答えに彼は小さく笑う。それがまた、私をドキッとさせた。
少しずつ近づく彼に、私は目を閉じる。
刹那、感じたのはいつもの彼からは想像もつかないような温かさと柔らかな感触。
そして始まる物語
(テスト明けたら、出かけようか)
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長くなっちゃいました、すみません……。そして今気づきました、名前変換無い……。
こんなものでよければどうぞお受け取りください!
朱都様、今回は相互ありがとうございました!
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