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 月が皓々と輝く、よく晴れた夏の夜だった。遠くからは太鼓を叩く音が響いてくる。恐らく、盆踊りの最中なのだろう。時を同じくして音楽もまた、聞こえてくる。



「祭りなんて、久しぶりかも」

「え? なまえ、祭りとかあまり行かない主義なのか?」

「うーん、祭りは大好きなんだけど、家のこととかあったし……」



 それにと続けようとして、しかし、すぐ口を閉じた。



 ――今は、お兄ちゃんのことは忘れないと。



 せっかく全員休みが重なって出かけているのだ。暗い話なんかしたくはない。それによって、この和やかな雰囲気を失うことは何としても避けたかった。
 質問をした本人であるバッツが隣で不思議そうに首を傾げた。それに笑顔を返して誤魔化す。うまく誤魔化せているといいのだが。

 公園の入り口を抜けて、まず見えたのは可愛らしいプリントの施された袋に入ったわたあめ。その向こうへ、まるで中心部に誘う標のように出店がずらりと並び、提灯もぶら下がっている。



「あ、そうだ!」



 バッツが急に声を上げ、先を歩いていたジタンに駆け寄る。何かを言ったかと思えば、2人で他の人も集めだした。……私を除いて。

 気になって、駆け寄ろうとした。一瞬感じた疎外感すらもはねのけて、ただ好奇心に従って。
 だが。



「なまえ」



 それを阻んだのは紛れもなく、クラウドの声だった。先程まで何やら電話をしていたからか、その右手には未だ開きっぱなしの携帯が握られている。



「は、はい」

「いきなり呼び止めて悪いな。少しだけつきあってくれ」



 そう言うなり彼はいきなり私の手首を掴んでスタスタと歩き出す。
 何が何だか全く分からないまま引っ張られ、みんなの横を抜ける。気になって足を止めようとしたが、クラウドはそれを許さず強引に公園内へと引き込んでいく。
 小さくなっていくみんなの姿を振り返りながら、私はその力に従うほかなかった。


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 連れてこられたのは明かりも少ない高台だった。公園の端に位置するらしいが、初めて来た場所だ。まず、あることすら知らなかった。
 木々が横で風に揺られ、葉が舞う。髪が乱れそうになって無意識に押さえながら、先に進めば開けてくる視界。

 刹那、上がる空の華。



「あ、花火……!!」

「遠くで花火大会をしているからな。ここからなら、よく見える」

「誰もいなくて、特等席みたいですね」

「まさしくその通り、なんだがな」



 何でもクラウドがまだ高校生だった頃に友達が見つけた穴場がここなんだそうで。誰にも言わずにいたために、家族もここを知らないらしい。
 秘密の場所、というわけだ。



「何だか、申し訳ないです……秘密にしていたのに、私なんかが…」

「別に、俺が連れてきたんだから気にするな。それに――」



 言いかけて彼は先程通ってきた道を見つめる。それを辿るようにして視線を動かせば、わらわらとやってくる人影たち。



「あいつらにも教えたんだ。あんたが謝る必要はない」

「え?」

「……ほら、早く行ってこい」



 優しく微笑んで、クラウドはそうっと私の背中を押す。送り出す彼はまさしく、“兄”で。
 私に気づいたみんなが手を振ってこちらに駆けてくる。手には各々りんご飴から恐らくは射的の景品であろうものまで様々な物を持っていた。
 急いで駆け寄り、様々な食べ物やおもちゃなどを見つめていると、バッツがフフンと得意げに笑う。



「なまえ、あまり祭り来たことないって言うからさ。ちょっとしたサプライズな。みんなでそれぞれ祭りならではのもんを買ってきたんだぜ」

「見られたら困るから、クラウドに協力してもらってなまえだけ別行動にしてもらったッス」



 バッツとティーダがそれぞれ説明してくれたおかげでだいたいの状況は掴めた。
 そして、嬉しくなった。脳裏には絶えず、みんなが一生懸命射的をしたり金魚を掬ったりする映像が流れている。それが鼻をつんとさせ、目元をじわりと熱くした。



「ありがとう……っ!」



 涙が流れる前に精一杯の笑顔を作った。感謝の意をたくさん込めた、私に出来る最高の笑み。
 それを皮切りに次々と品が手渡される。綿あめ、りんご飴、水風船……。
 個性溢れるそれらを見て、また自然と笑みがこぼれる。

 最後にティーダから金魚の入った袋を受け取った瞬間、ヒュルルル……と音がした後に一際大きな花火が夏の夜空に咲き誇った。


夏色サプライズ
(来年は、私がサプライズしてあげなきゃ)

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大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした!
そして全くほのぼのになっていない…すみません…
こんなのでよろしければお受け取りください。
今回は本当にありがとうございました!



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