「……」
「……?」
ソファーに座って大好きなバイクの雑誌を読んでいたら、猛烈に熱い視線を感じた。何だ、とちらりと横を見れば真っ直ぐ俺をガン見するライナ。
真っ赤な頬、何か言いたげな口元。
「どうした?」
「……」
「おい」
「…………クラちゃん」
「は?」
何だそれは。
危うく雑誌を取り落としそうになる。彼女の突拍子もない『クラちゃん』発言に23年間苦楽を共にした俺の脳は追いつくことが出来ない。
まず、そんな呼ばれ方されたことないんだが。
「今日からクラウドはクラちゃんです」
「すまない、意味が分からないんだが」
そんな真顔で言わないでくれ、と思いつつもため息混じりに言えばライナは視線をそらした。相変わらず赤い頬は林檎のようだ。
食らいついてやろうか。そんな何とも言えぬ下心丸出しの欲求を頭の隅に追いやりながら、答えを待つ。
と、ライナの視線が俺の方に再び向けられた。
「分からなくて結構です。今日からクラちゃん、これ、決定事項!」
「本人無視で決定するな」
「嫌なの? クラちゃん」
意地悪を言っているわけではなく、本気で嫌かどうか分からないようだった。きょとんとして、俺を見つめる。
ライナに言われるなら別に構わないが、如何せん子供っぽい。一応言っておくが俺は23歳。れっきとした大人だ。
なのにそんな、クラちゃんって。
「嫌とかの問題以前に、何でいきなり呼び方を変えるのかが気になるな」
「え、それは……」
自信満々な彼女の態度が崩れかける。
……チャンス。
「呼ぶのは構わないが、理由が知りたいな……」
近づいて、わざと耳元で囁く。ライナは耳が最大の弱点らしいと、つい最近知った。
案の定、ライナはピクッと反応し、耳の先まで真っ赤になった。素直な性格だ。そこもまた惚れポイントではあるが、今それを語るのは止しておく。
「あと、えと、その……っ」
「聞きたいな……理由」
「い、いや、その……」
「教えてくれないのか?」
「あ、だ、だから……っ」
顔を真っ赤にして照れるライナに、俺の理性が警鐘を鳴らす。そろそろ我慢も限界だが、ここは耐えなくては。
あくまで余裕、を装ってライナの耳元で更に囁く。
「理由を教えてくれたら、あの呼び方を許可しても構わないんだけどな……。どうする、ライナ?」
「……たまに呼び方、変えたらいいって……本に書いてあったから。刺激が大事だって、言うし……その…」
なんて可愛らしい。
警鐘はどこか遠くに消え去り、俺はライナが全て話す前に思い切り抱きしめた。
いきなりのことに驚くライナだがそんな彼女も可愛い。そう思う俺は末期だろうか。
「なら、俺も考えないとな」
思い切り可愛いあだ名、考えてあげなくては。
いつもと違う呼び方をする
(と言ったものの、なかなか難しいな……あだ名)
(あ、無理して考えなくてもいいよ?)
(……いや、大丈夫だ)
title * 誰そ彼様