「ねぇ、誕生日プレゼント……何がいい?」
「……別に、何でもいい」
あまりの無関心さに、ついつい手に持っていたファッション雑誌で叩いてしまった。いきなりのことであからさまに嫌な顔をする彼を見て、ため息をつく。
私の誕生日となるとあんなにしつこく「欲しいものないのか?」とか訊いてくるのに、自分の事となると全くもって無関心。毎度のことながら呆れる。
誕生日以外のことでも無関心極まりない彼、クラウド。口癖である「興味ないね」からも分かるとおり彼はあまり興味を持ったり関心を持ったりする事がない。
でも誕生日くらいはそれ、やめてほしいな……。
私の心の声なんてつゆ知らず、クラウドは偶然にも誕生日と被った休みを気ままに過ごしている。ソファーに座りながら、この前お客さんから譲ってもらったらしい古本をさっきから読んでいて全くこちらに関心がない。
呆れて、その場を離れようと足先を目的地のキッチンへと向ける。
どちらにせよケーキは作ろうと思っていた。甘いものは好きではないかもしれないから、甘さ控えめのレシピで。プレゼントはその時にゆっくり考えるしかない。
欲しいもの、あげたかったな。
「ねぇ、本当に無いの? 欲しいもの」
「無いな」
「……何でもいいんだよ?」
“何でもいいんだよ”
まるでその言葉を待っていたかのように彼は本を置き、こちらに近づいてくる。悪戯な笑みを湛えて。
「何でもいいんだな?」
「うん」
「なら、ここにキスをくれ」
言うなりクラウドは自分の唇に指を当てとんとんと叩く。
恥ずかしい話だが、付き合ってから私は唇にキスをした試しがない。恥ずかしくていつも頬で我慢してもらっているのだ。
「……本当に、それでいいの?」
「ああ」
「変なの」
「うるさい。ほら、早くしてくれ」
待ちくたびれたとでも言わんばかりの表情を浮かべるクラウド。明らかにこれは急かしている。
羞恥心が膨れ上がる。
だが、彼を見ていると愛しさがこみ上げてくる。
意を決す。息を小さく吐いてクラウドを見つめれば、彼は柔らかな笑みで返してくれた。
頑張れ、ライナ。これも彼のため。彼のためなんだ。
そして、交わしたのは少し乱暴な口付け。
一瞬感じた温もりに、柔らかさに、体が熱くなる。火照りきった頬がその口付けを一瞬のものにした。
さっと口を離して反射的に顔を逸らす。
だが気になって、ちらりとクラウドを見れば、なぜか不満顔だった。納得がいっていない、そんな表情。
何だか、まずい予感しかしない。
「……まだ、足りないな」
案の定。欲求不満を訴えた彼に反抗するように、こみ上げてきた羞恥心を隠すように、逸らしたままの顔を限界まで逸らした。
だが、抵抗も虚しく顎を掴まれて戻されればあの温もりが再び帰ってくる。
さっきよりも熱い、口付け。
今までの欲求不満を解消していくかのように食いつく彼。
絡められた舌に、ついて行けない幼稚な私。
脳髄に染み渡った甘さに冒され、意識が遠くの方で揺らめく。ただ、この甘さに浸る。
そして気づいたら口は離れていた。
「ご馳走様でした」
言いながら舌なめずりする彼を見て火照りきった頬に遂に火がついた。頭は完全にショート状態。
「……もう一度、しないか?」
「駄目! 私これから夜御飯作らなきゃいけないんだから」
「なら、終わったら……は?」
妖艶ともとれる笑みを浮かべ問いかけてくる彼に私はただただ洗脳され、頷いてしまうのだった。
くちづけは37度2分
title...etoile様