「初恋かぁ〜…」
「そうそう! ライナは誰だった?」
久しぶりにやってきたユフィがオレンジジュース片手に訊いてくる。カウンターで仕事を続けるティファは、それをやわらかに見つめていた。
「うーん…隣に住んでた子…だったかなぁ…」
「おおっ! その子ってもしかして、クラウド似?」
「えっ?ち、違うよ!どうしてそうなるの?!」
「初恋に未練があって、それで似てる人を好きになっちゃったパターン?」
ないない、と首を振って自分のお茶を飲む。
まずあんな美形に似た人なんていないよね。うん。
「じゃあじゃあ、どんな子だったの?」
「んーっと…」
10年以上も前の記憶を必死で掘り返していると。
「…さっきから、何騒いでるんだ?」
あの、もう聞き慣れた声が横からして、見たら案の定いた。
クラウドだ。さっきまでやっていたバイクのメンテナンスはもう終わったみたいだ。
…でも、なんでだかいつもより不機嫌顔。
「ライナの初恋の人について話してたんだよ。ねっ?」
「うん。そうそう」
私がそう認めたら、ますます不機嫌になってしまった。
「…初恋なんて、どうでもいいだろ」
「およっ?まさかクラウド、やきもち?」
「違う」
頬を若干赤らめて、クラウドはそう言うと私の隣に座った。
かと思えば私の肩に手を回してぐいっと引き寄せた。
ち、近いっ…。
こんな近くなの初めて…っていうか、クラウドの香水の香りがいつも以上に…っ。
パニック状態の私を知ってか知らずか、クラウドは超至近距離で言葉を紡ぐ。
「初恋なんて、どうせ“過去”。今隣にいるのは俺だ。違うか?」
「そう、だけど…っ」
「じゃあ、今はそいつの話は無しだ」
言うやいなやクラウドは私の頬に口づけをして、さっさと部屋に行ってしまった。
どうしよ。キスされた側のほっぺがすっごい熱い。
「わ〜、あれ、絶対やきもちだよ」
「…」
「ほんっと、素直じゃないよね〜。ね、ティファ」
「…あんまり大きな声で話すと、クラウドに聞こえるよ」
特に今はね、と付け足したティファにユフィは「え〜どうして〜」なんて訊いている。
私はそれどころじゃないけど。
キスが恥ずかしいとか、そういうのではなく。
――クラウドも、やきもち妬くんだ…。
私が他の男の話をしたら、ああやって。
クラウドがやきもちを妬いたことが嬉しかったという気持ちは、私だけの秘密にしておこう。
やきもち妬き
(ちょっとだけ、想いを感じられた気がした)