RKRN小説/長編 | ナノ
作品


 序章〜忍冬の咲く頃に〜

保健委員会委員長である善法寺伊作は一人薬草園へと来ていた。
そろそろ大事な薬草の一つであるスイカズラの花期が終わるころ。蔓に絡んだ花のほとんどは金花になって昆虫が蜜を吸いにやってきているだろう。
これから夏風邪を引く生徒も増える。最後にもう一度、薬効が広く万能な生薬を採っておこうと目的の花が咲く場所へと足を進めると例年と違うことに気付いた。

(まだ咲いてる?)

すでに半夏生の時期も過ぎるというのに地面に散った花弁は一枚もなく、スイカズラは先日と変わらず咲き誇っていた。忍冬の花は日時を経て白から黄色に変わるものなのだが、金銀花の別名の通り、今だ白花黄花が混じっている。これからまだ咲くのか蕾も多く見られた。

(六年間保健委員をやってきたが、こんなことは初めてだ)

スイカズラは漢名を忍ぶ冬と書く通り、冬でも葉を落とさずに耐え忍ぶ意から付いたと校医の新野先生に聞いた。厳しい環境に強いとは知っていたがこんなに長く咲くものなのか…それとも何かを暗示しているのか。

気にはなったが、悪い予感は捨て、特に甘い香りのする金花だけを採った。
少ないよりは多い方が良い。余ったら忍冬酒を作って卒業祝いにみんなと飲もう。

酒が苦手な小平太でも甘い忍冬酒なら飲めるだろうと、花の香りを嗅ぎながら伊作は小さく笑った。


⇒next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -