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作品


 喪失の過去夢

気付いたら時代劇でもあまり見ないような古めかしい空間にいた。
電気なんて文明的な物はない、昼間でも閉め切れば薄暗い小さな部屋だ。部屋の真ん中には部屋を二つに区切るようにしてレトロな衝立が置いてある。
そして目の前には善法寺伊作によく似た長髪の男が深緑の和服の格好で座りながら俺に何かを言う。
そういえば幽霊の時の小平太が身に着けていた忍装束と色は違うがよく似ている気がする。

「留三郎。君はなんだってあんな選択をしたんだい?」

留三郎。それは間違いなく俺の名前だ。そして俺は自分の意志とは関係なく口を開いていた。

「伊作。お前の言いたいことは分かるがお前は何も分かっちゃいない」

自分の口から出た「伊作」という言葉に自分が反応する。
そうか、目の前の伊作は500年前の――前世の伊作の姿なのか。
ということはここは夢の世界で自分も前世の姿をしているのだろう。自分の姿を確認したいが部屋には鏡らしきものは何も見当たらない。それに自分の体なのに自分の思うように動かず、代わりに自分の意志とは関係なくわずかに動く。

「僕はてっきり、留三郎と小平太は同じ城に就くのかと思っていたよ」

今度は伊作の口から出た「小平太」という言葉に内心大きく反応する。

どういうことだ?
俺と小平太が――何だって?

「小平太だって理解している。それにこれはあいつの為でもあるんだ。恋心なんて忍びには不要な感情なんだって伊作もこの学園で嫌というほど習ってきただろ?情欲は時に身を滅ぼしかねない。これ以上俺があいつと一緒に暮らしてみろ。互いに互いを依存しちまうに決まってる。俺は自分のせいで小平太の長年培った忍びとしての感を鈍らせるわけにはいかないんだ」

――だから卒業を機に小平太とは別れて別の道を歩む。

自分の口から出た衝撃の事実に留三郎は内心眩暈を起こした。そうか、俺と小平太はやはり恋仲だったのか。
夢の中の自分の心境を知って、自分がどれほど小平太を好いていたのか痛いほど分かった。
だがそれは忍びには時として忍務や命を失いかねない邪魔な感情。いや、そんなのはただの言い訳だ。

小平太は戦忍を志願していたがあいつのことだ。特攻隊のように戦場の最前線を走り抜けるに違いない。豪快で細かいことは気にしない如何にもあいつらしい生き様だ。

だが、それでは二人の未来はどうなる?
きっと留三郎よりも小平太の方が先に逝く。あいつは己の思うまま、いや何も考えていないかもしれないが体を動かしている時が一番幸せなのだ。そんな彼を束縛するのは鳥を鳥かごに、魚を水槽に閉じ込めてしまうようなものだ。
ならばいっそ、危険を承知で自分の元から手離した方があいつは幸せなのではないか?

それも一理あるが一番の理由は自分の目の前で小平太の死を見るのが恐かった。だから逃げたのだ。

「小平太はすぐ物を壊すし怪我をするよね」

ため息をつきながら伊作が留三郎に言い聞かせるように口を開く。

「自分の限界もまわりの限度も知らない。何も知らない子供がそのまま大きくなったみたいだ。それでいて下級生を扱う時はどう接していいのか分からない。表では笑っているがそれが心からの笑顔には見えない。僕には小平太が人間としての喜びや悲しみが理解できていないように思うよ」

「………」

「だから留三郎が別れ話を持ちかけた時、二つ返事で承諾したんだろうね」

ああ、そうだ。
この話はもう本人にも伝えた。小平太は一瞬戸惑ったがすぐにいつもの笑顔に戻り「そうか。留三郎がそう言うのなら別れよう」とあっさり承諾した。

自分の望んだことなのに心のどこかでそれを後悔する自分がいた。そして俺の心中を慰めるように伊作は黙ってそばにいてくれた。



******



目を開けると見慣れた部屋の天井が映った。
まだ夜中なのだろうか部屋は暗い、そしてすぐ傍には留三郎を心配そうに覗き込む小平太がいた。

「留三郎、大丈夫か?少しうなされていたぞ」

「…小平太?……ああ」

妙に重い頭を抱えながら起き上がる。それほど暑くもないのに身体中発汗していた。

「嫌な夢でも見たのか?」

「うん……あれ?」

小平太の疑問に答えようとするが、何も思い出せない。
夢見が悪かったのだろうか?身体の疲れが取れなかったのだろうか?何か大事な夢を見た気がするのだが、考えても何も思い出せない。
そんな俺を気にかけてか、小平太はせまいベッドから抜け出すとキッチンに行き水の入ったコップを持ってきてくれた。

そういえば喉がカラカラだと一気に飲み干す。その間に小平太はまた部屋から出て行き今度は熱めのお湯が入った洗面器とタオルを持ってきてくれた。
そこまで気を遣わなくていいのに…そう思いながら同居人の好意に甘えて汗を拭く。
拭いてる間、互いに目を合わせることはなく小平太は無言でテキパキと着替えを出してくれた。そして拭き終わったのを見計らうように小平太は洗面器や洗濯物を抱えて部屋を出る。

自分よりもずっと大人だと感謝した。
思い出せない夢のことを考えようとするも、まだ頭の重みは治まらない。むしろズキズキ痛む気がする。

留三郎はベッドから下りると棚の引き出しを開けて頭痛薬を取り出すと、タイミングよく小平太がおかわりの水を持ってきてくれた。

まだ朝まで時間はあると二人で抱き合うようにベッドにもぐる。先ほどの汗が嘘のように少し肌寒い。
今度は服越しに人肌のぬくもりを感じて深い眠りについた。


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