朝の陽だまり
カーテン越しに日が差し込む。
もう朝だろうか。休日なのだからもう少し眠っていたい。
朝日から逃げるように掛け布団を頭まで被ろうと寝返りをうつ留三郎だが、なにか違和感があり布団の中を覗いた。
そこには何も身にまとわず、生まれたままの姿で静かに寝息をたてる青年の姿があった。
「っっっ!!???」
声にならない悲鳴を上げて飛び起きた。
はて?自分はこんな趣味など持っていただろうか?
昨晩は何をした?たしか大学の帰りに伊作と長次を家に連れて雑談したのは覚えている。その後は?
二人とも普通に帰った。いや、もしかしたら記憶がないだけで三人で居酒屋に行ったか?そのまま何処かで男をお持ち帰りして、勢いでヤってしまったのだろうか。
認めたくはないがこの男との記憶がないから肯定も否定も出来ない。その前にこの状況が不自然すぎてうまくのみ込めない。
19歳なのに飲酒をしてしまったこと。
見ず知らずの男を家に連れ込んでしまったこと。
自分には無意識に同性の趣味があったこと。
留三郎はあまりのショックにただ茫然とするしかなかった。
ふいに寒いのか小さく身じろぎながら青年は目を覚ます。何度か瞬きをし、留三郎と目が合う。
「………」
「………」
気まずい空気が流れる。何を言えばいいのか分からない。いや、まずは謝るべきなのだろうがどんな言葉をかければいいのか分からない。ごめんなさい?記憶がないんです?正直に言えば許してもらえる?それとも最悪の場合、慰謝料を請求される?自分は一体どうすればいいんだ。だが、先に口を開いたのは青年の方だった。
「おはよう、留三郎」
「…あ、うん。おはよう…ってそうじゃなくて!」
思わず青年に合わせてしまった留三郎だったが、そんな呑気にしてられないと声を荒げる。青年はキョトンとした表情で留三郎を見つめながら身体を起こした。重力に従って青年の身体をまとっていた布団が落ちると留三郎は慌てて掴んで青年にかぶせてやる。
「なんつーか…その、ごめん!全然記憶がないんだ…」
「………」
「悪いことをしたとは思っている。土下座でも何でもするから許してくれ!」
「何を言ってるのか分からんが、礼を言わなきゃいけないのは私の方だぞ?」
「…は?」
留三郎が呆気にとられると青年は欠伸をしながら大きく伸びをした。それからまじまじと自分の両手を閉じたり開いたりと動かしながら見つめている。
ああ、そうか。こいつは――
「あの幽霊だったのか」
そういえばこの青年とあの幽霊はそっくりだ。
大きな丸い瞳に太い眉、少しふっくらとした頬。今は結っていないが獅子のようにボサボサの蒼い髪。
幽霊の時は向こうが透けるほど白かった肌も今は健康的な肌色だ。
スっと留三郎は青年の頬を撫でるように優しく触れた。あの冷感がないかわりに温かい体温を感じる。ちゃんと生命の血が流れている証拠だ。
「そうか、お前だったのか」
「お前じゃない、七松小平太だ。食満留三郎」
そう言うと青年はニッと笑った。
取り敢えずこのままではいけないと、留三郎は小平太に無難な部屋着を着せた。予想はしていたが留三郎よりも背が低いため、服のサイズも少々大きい。
少し遅い朝食を取ったら、まずは小平太に合うサイズの服を買いに行こうと考えながら、小さなチッキンヘと足を運んだ。
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