RKRN小説/長編 | ナノ
作品


 冷魂の同居人

東京に戻って早くも数日が過ぎた。
GWも終わり大学にアルバイトに忙しい毎日を送っている。
家に帰る着く頃には21時を過ぎるのが当たり前になっていた。

「ただいま」

言っても返事がないのは分かってはいるが、つい長年の癖で口から出てしまう。靴を乱雑に脱ぎ、玄関兼キッチンを通り過ぎ、ワンルームの狭い部屋へと進む。
やはり今日もベッドの前に座り込む青年の幽霊がいた。

青年は留三郎と目が合うと、静かに笑う。
顔は蒼白で向こうの景色が透けて見えるのに、青年の笑顔は幽霊とは思えないほど明るいものだった。
得体のしれないものなのに、何故か怖いと感じないのはこの表情のせいなのだろうか。

青年の傍に座り、コンビニで買ったサラダや弁当を小さなテーブルの上に広げる。
始終青年は留三郎の顔をじっと見つめていた。
目を合わせるとすぐ笑顔を向ける。
その表情に悪気はないのだろうが、食事中ずっと横で見つめられ続けるのはどうにも落ち着かない。
半分からかい気味に青年に「お前も食べるか?」と尋ねると、きょとんとした顔をした。

「幽霊は食べれないだろ」

そう言ってやると青年は恥ずかしそうに笑っていた。

食事も終わり、早々に風呂から上がると青年は窓から外を眺めていた。そういえばカーテンを閉め忘れていた。

「何か見えるのか?」

声をかけるが勿論返事はない。
外を見ていた青年は返事の代わりに留三郎へと視線を移しじっと見上げた。
留三郎は大学の同級生の中でも標準ほどの身長で176cmだった。
対して目の前の青年は168cmほどか。
青年の生きていた時代では高い方かもしれないが、それでも留三郎から見たらどうしても見降ろす形になる。

青年が身に付けている服も今では見慣れない漆黒色の和服であった。時代劇でよく見る普通の農民が着るような服ではなく、かといって位の高い貴族が着る服には到底見えない。例えるなら忍者が一番しっくりくるような服装だった。頭巾は身に着けてはいないが。

よくは知らないがきっと何百年も前からその姿のままで彷徨っていたのだろう。
長いこと七松神社に棲みついていたのかもしれない。
みんながみんな霊感が強いわけじゃない。
留三郎も幽霊を見たのはこの青年が初めてで今まで霊感だとか幽霊といった非科学的なものは信用していなかった。
特に今のご時世だ。
幽霊や妖怪を見ただなんて周りに言えば、精神病院を勧められるのがオチだろう。

逃げるか無視をされるか存在を否定されるか。
今までずっと独りぼっちだったのだろう。
それがあの日あの神社で、留三郎に普通に声を掛けられて嬉しくてつい付いて来たのかもしれない。
憑いて来たわけじゃないし、対して迷惑をかけてないのだから別に良いじゃないか。

(可愛いのに可哀想だな…)

留三郎は青年の頭を撫でようと手を伸ばした。
頭に触れたと思った手は異様に冷たく感じ、そのまま青年の身体という空間を突き抜けた。

一瞬、罪悪感を感じたが青年は特に気にする様子でもなく、先程留三郎がからかった時のように静かに微笑んだ。

「あのさ」

青年とまた目が合う。

「明日大学の友達が来るんだ。いつもより早く帰って来るけど、あまり相手してやれないかもしれない。ごめんな」

青年は首を横に振る。
きっと留三郎の「ごめん」という言葉に対して(気にしないで)と答えているのだろう。なんとなくだがそう思った。

開きっ放しのカーテンを閉め、電気を消し、ベットに潜りこむと「おやすみ」と声をかける。
返事は勿論ないが、ふいに留三郎の手の甲が冷たく感じる。
青年なりの精一杯の返事なのだろう。
冷感しか分からなかったが、それが青年の手の温もりならばいっそ嬉しく感じた。


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