RKRN小説/長編 | ナノ
作品


 初めまして。それとも――。

数日前からずっとそうだ。
一人暮らしをしている自分のアパートに何かが住みついている。

人間でも動物でもない。それは――。





******





一週間前、留三郎は故郷の神戸に帰省していた。
大学生になって初めてのGWに、高校の頃の友人達と会う約束をしていた。

久し振りの地元で懐かしい友人達とはしゃぎまわった。ほんの二ヶ月前までは嫌でも毎日会っていた奴等なのに、卒業してから離れ離れになってしまった。特に留三郎は進学を機に上京して、仲間に会うことも難しくなっていた。

(これからは、わざわざ会う約束をしないと、もう会えないんだな…)

友人達との小旅行の最後、尼崎に行くことになった。近くに住んではいたが、尼崎なんて大阪に遊びに行く電車で通り過ぎるだけで、改めてその土地に足を踏み入れるのは初めてだった。

立花駅に降り立つ。そういえば、大学のクラスメイトにそんな名字の生徒がいた気がする。
友人に言われるまま狭い道を何度か曲がると神社が見えた。異様に朱が映える小さな神社だった。

「此処は?」

留三郎が聞くと仲間の一人が笑いながら答える。

「七松八幡神社。厄除けの神社だな」

「ふーん…」

「留三郎って昔から何かと小さな不運に見舞われていただろ?此処のお守りでも身に付ければ、少しは不運回避できんじゃねーの?」

友人一同爆笑する。
これは友人達なりの不器用な心遣いなのだ。高校生の時は留三郎がどんな小さな不運に見舞われようと何処かで仲間が手を伸ばして助けてくれた。大学生になり離れ離れになってからはそんなこともいかない。自分達の代わりに此処の神様に守ってもらえという仲間達の心情なのだ。

鳥居を潜り、手水舎で身を清める。
清水を流す龍の瞳が留三郎を睨んだのは気のせいだろうか?

拝殿への階段を登る際に、両側の狛犬にも睨まれたような気がした。

参拝をしてお守りも頂いた。仲間がおみくじを引いている間に境内を見回す。
すると末社の近く、何かの慰霊碑の近くに16歳位の蒼い髪を結った青年が此方を見ていた。留三郎と目があった途端、その青年は静かに笑う。

何処かで会ったような気がする。

「おい」

思わず留三郎が声をかけると、青年ではなく友人達が驚いた顔で留三郎を見つめた。

「どうしたんだ?留三郎」

「え?いや、あそこに人がいたから…」

言いながら留三郎が青年の方を振り向くと其処には慰霊碑があるだけで、誰もいなかった。

「あれ。さっきまで其処に人がいたのに」

「お前、狐にでも化かされたんじゃないのか?」

「確か其処は摂社の玉光稲荷大明神だっけ?」

「案外此処の神社の神様だったりしてな」

友人がまた笑いながら話し合う。きっと幻覚でも見たんだろう。留三郎もそう思い、それ以上深くは考えなかった。

七松神社を去る際、ふいに強い風が吹いて境内の木々が大きくざわめいた。





******





故郷での休暇もあっという間に終わり、一人暮らしをしている東京へと帰って来た。
故郷から帰ったあの日から、自分の部屋に何かが住みついている。それはあの神社で見た、長い藍髪を結った青年だ。


人間でも、動物でもない。それは――幽霊だった。


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